残酷な童話/チャールズ・ボウモント

残酷な童話 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

残酷な童話 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

論創社《ダーク・ファンタジー・コレクション》第7巻はチャールズ・ボウモント。ボウモントには早川異色作家短編集第12巻『夜の旅その他の旅』という訳出があるが、これは早川異色作家短編集全20巻の中でも綺羅星のように輝く鮮烈な作品集であり、最もお気に入りの一冊であった。ボウモントの邦訳は永らくこの『夜の旅その他の旅』のみであったが、ようやくここにきて新訳が読めるのかと思うと感慨深い。この『残酷な童話』はボウモントの処女短編集であり、その為多少荒削りであったり作者の方向性の定まらない作品もあったりはするが、『夜の旅〜』同様珠玉の作品集であることは間違いない。

『残酷な童話』の諸作品の特徴は妄執の物語ということになるだろうか。その妄執は登場人物を陶酔させ、または周囲から逸脱させ、さらに己や周囲を傷つけたりもする。しかしまた、人はその凡庸な人生から逃れるために自らの妄執へと逃避するしか術を知らなかったりもするのだ。だからボウモントの物語にはどこか奇妙な哀感がある。さらに作品は結末を読者の想像にまかせたまま終わるものも少なくない。それは人生の問題に単純な結果や簡単な結末がつかないのと同じなのかもしれない。

幾つかの作品を紹介してみる。「残酷な童話」は狂気ともいえる厳格な教育を押し付ける母と虐待される子供との"残酷な童話"の物語。「消えゆくアメリカ人」は他人から空気のように扱われる男のお話。「名誉の問題」はチンピラの仲間に認めてもらうために恐ろしい決断をする少年を描く。「フェア・レディ」ではオールドミスの女がたった一言の聞き間違いから相手に長い片思いを続けてしまう。「ただの土」は業突く張りの男の皮肉な最期を描く。「夢列車」は列車旅行に赴く少年の幻想と失望のお話。「ダーク・ミュージック」も厳格すぎる女が森から聴こえる官能的な音楽に惑わされ自らを失っていくという物語。「昨夜は雨」では"シュヴァルの理想宮"を髣髴させるような城を建てる男とあるカップルとの悲痛な物語が展開する。「ブラック・カントリー」はジャズ・ミュージシャンたちとその奏でる音楽の熱気を描ききった音楽小説。「変態者」は同性愛が常識となり異性愛が非合法となった世界の物語。そして「犬の毛」はある男が悪魔と不老長寿の契約をしたがその報酬は月一、一本の毛で…というもので、結末は予想できるもののドタバタ振りが楽しい一作。

『夜の旅その他の旅』レビュー/メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

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