コンパニオン (監督:ドリュー・ハンコック 2025年アメリカ映画)

相思相愛のカップル、アイリスとジョシュは、ある日友人たちの誘いで人里離れた別荘を訪れる。そこでアイリスは別荘所有者に暴行されかけ、その男を刺し殺してしまう。血塗れで取り乱すアイリスに、「アイリス、眠れ」と命令するジョシュ。するとアイリスの眼は白濁し、全ての機能を停止した!?そう、実はアイリスは人間の”コンパニオン”として作られたアンドロイドだったのだ……そしてそこから全てが恐ろしい惨劇へとなだれ込む。今回は【ネタバレあり】で書くのでご注意を。
アンドロイド・アイリスを演じるのは先ごろ日本でも公開された傑作ホラー『異端者の家』のソフィー・サッチャー。徐々にクズ野郎であることが判明してゆくジョシュに『ザ・ボーイズ』『オッペンハイマー』のジャック・クエイド。監督はテレビディレクターでこれが映画初監督のドリュー・ハンコック。
【STORY】人里離れた山小屋で静かな週末を過ごすはずだった4人の男女。だが、その中のひとりが“人間”ではなかったと明かされた瞬間、空気は一変する。彼女は人間のために作られた従順なアンドロイドだったのだ。しかし、ある過去の記憶と感情に支配され、彼女の“プログラム”は暴走を始める。
実に面白く、興味深い出来の作品だった。女性型アンドロイド、あるいはAIが登場するSF映画は『メトロポリス』の昔から結構な数があると思うのだが、最近では『M3GAN ミーガン』が記憶に新しい。オレは『M3GAN ミーガン』を非常に高く評価しているのだが、それはこの映画で暴れまわるアンドロイド・ミーガンが、暴走だの悪魔の憑依だのではなく、人間のプログラム通り動作した結果として惨劇を起こしているという部分だ。つまり機械に問題があるのではなくそれを運用する人間の問題なのである。
翻ってこの『コンパニオン』では、アンドロイド・アイリスが惨劇を起こした原因はジョシュによるプログラム改変によるものなのだ。この物語の世界ではコンパニオン・アンドロイドのレンタルは一般化しており、動作規則として「嘘をつけない」「人を傷つけることができない」などといったルールが設けられているが、ジョシュはある企みによりプログラム改変を行い、「人を傷つけることができる」アンドロイドにしてしまったのである。
ここで思い出すのはロボットSF小説の権威、アイザック・アシモフの提唱した「ロボット3原則」だろう。それは「1:ロボットは人間を傷つけられない 2:ロボットは人間の命令に従わなければならない 3:上記2項に抵触しない限り自らを守らなければならない」といったものなのだが、アシモフSFが面白いのは、こういった一見鉄壁のルールがあるにも関わらず、それでも起こってしまうロボット犯罪の原因は何か?という部分にある。すなわち、「どのようにルールをかいくぐるのか?」という知能合戦の面白さなのだ。
映画『コンパニオン』の面白さの一因となるのもこの「どのようにルールをかいくぐるのか?」といった部分にある。特に明言されていないがアンドロイド・アイリスもまた「ロボット3原則」に似たルールに縛られた存在であり、「出来ることと出来ないこと」が明確に存在する。しかしアイリスは危機に瀕することにより、「どのようにかしてルールをかいくぐる」ことを考えるのだ。実のところシナリオと演出において結構「ずる」をしている部分があり、ルールに対する厳密さに欠けている描写も散見するが、それでも試みの面白さは確かに伝わってくるのだ。
興味深いのは、これまで数多く描かれてきた女性型アンドロイド/AIの登場する映画の中でも、この『コンパニオン』はおそろしく日常的なテクノロジーとしてアンドロイドが存在し運用されているといった点である。物語においてアイリスを操作するのはなんとスマートホンであり、アイリス自体もあたかもスマホの延長線上にあるかのような存在なのだ。つまり「10年後の未来」どころか「明日の世界」でもありうるのだ。
さらにそのAIにしても、非常に人間的な振る舞いを見せるにせよ、この物語では「AIは自我を持てるのか」といった問題提起がされることがない。それは昨今の大規模言語モデルの急速な発展により、「限りなく人間的にふるまえるAI」が存在しても、それがすなわち「AIの自我」に結びつくものではないと認知されていることの表れではないのか。
もうひとつ面白いのは、この作品が結構な低予算で作られ、それでも成功を収めていると思われる点だ。まず舞台のほとんどは山奥の別荘であり、登場するのは惨劇に巻き込まれるカップル3組とプラスアルファ程度である。SFジャンル的な作品にもかかわらず、大掛かりなセットや凝った小道具、派手な特殊効果がほとんど使われていない。こういった部分において、アイディアが突出していれば、それがアンドロイドが主人公のSF作品であっても、莫大な予算をつぎ込むことなく製作できる、といったいい見本のように感じた。ひょっとしてこの映画で一番金が掛かったのはエンドロールで流れるビージーズの曲の権利金なのではないかと思わせたほどだ。
なお映画は日本では劇場公開されておらず、現在配信での視聴が可能である。また、ソフトは8月に発売予定されている。

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