彼女は復讐の旅に出る/ミステリ『ローン・ガール・ハードボイルド』

ローン・ガール・ハードボイルド / コートニー・サマーズ (著), 高山真由美 (訳)

ローンガール・ハードボイルド (ハヤカワ・ミステリ文庫 サ 9-1)

NYのラジオDJマクレイに、ある女性が電話をかけてくる。トレーラーハウスを貸し、祖母代わりとして気にかけていた19歳のセイディが姿を消したというのだ。そのドキュメンタリー番組を制作するマクレイは、セイディが最愛の妹マティを殺害した義父への復讐を狙っていることを知る。セイディの凄絶な追跡行とマクレイの調査が交わるとき、明らかになる真実とは。エドガー賞YA部門受賞のいま最も切実なハードボイルド。

 ミステリ小説『ローン・ガール・ハードボイルド』はコロラド州に住む19歳の女性、セイディが殺された妹の犯人を捜して単身アメリカを彷徨い歩く物語である。セイディと妹マティは母子家庭で暮らしその母も家出していた。さらにセイディは吃音症で、引っ込み思案の女性だった。

壊れた家庭、孤独な青春時代、不安定な情緒、そのような生い立ちにあるセイディはただただ無力な女性に過ぎない。最愛の妹の復讐、という執念だけで犯人捜索を続けるセイディは決してタフでマッチョな女丈夫ではなく、常に怯え、常に逡巡し、満身創痍になりながらアメリカの町から町へと渡り歩いてゆく。その町々でセイディは事件の手掛かりを探しつつ様々な人々に出会う。悪人もいれば善人もいて、その出会いの中で自らの存在しなかった青春をかすかに発見することもある。

そしてこの物語を独特のものにしているのはその構成だ。NYのラジオ番組がこの事件を扱い、もう一つ別の面からこの事件を検証し、さらにセイディの行方を追ってゆくのである。殺人犯を探す力無き19歳の女性の孤独な道行き、このようなシチュエーションから日本語タイトルは『ローン・ガール・ハードボイルド』とつけられたのだろう。ただし「ハードボイルド」の定義としての乾いた情緒、文体、といったものがこの物語で描写されているわけではなく、ハードボイルド作品を期待すると肩透かしを食うだろう。

また、物語の本質にあるのは性的なものも含む児童虐待であり、そういった社会問題に切り込む姿勢は真摯なものではあるけれども、こと物語性という事においてはある意味ありふれたものであると言わざるを得ず、主人公が良くも悪くも「普通」であることも含めて、カタルシスの乏しい作品になっていることは否めない。そういった構成にテコ入れという意味もあってラジオ番組の挿話があるのだろうが、物語にリズムをもたらしている以上に効果を上げているようには思えない。こういった煮え切らなさがラストにも露呈し、作品として未完成なものを感じた。