宇宙から来たキチガイピンク光線でなにもかもグチャドロなんだああああ/映画『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』

■カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-(監督:リチャード・スタンリー 2019年ポルトガルアメリカ・マレーシア作品)

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ピンクだッ!?ピンクなんだッ!?ピンクの光がオデの頭を掻きまわすんだッ!?何もかもがピンクに染まり全てがグチャグチャにトロケていくうううううッ!?

……森の中の一軒家にその家族は住んでいました。主人の名はネイサン(ニコラス・ケイジ)、牧舎にアルパカを飼い楽しく乳しぼりをする毎日でした。しかしある日の夜、家の庭に、轟音と共にバスケットボール大の隕石が墜落したのです。墜落の際、隕石はイヤラシいピンク色の光を発していました。さらに隕石はエンガチョな臭いまで漂わせる始末!そしてその日から、家族の身にとてもイヤラシい異変が次々と起こり始めるのです!

H・P・ラブクラフトの『宇宙からの色/異次元の色彩』を原作にしたホラー映画『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』である。ラブクラフト原作という事だからホラーはホラーでもコズミック・ホラーというやつだ。要するに宇宙から得体の知れないイヤラシイものがやってきて人々が身も心もグチャドロにされてしまうという恐怖を描くものである。主演はハリウッドでSAN値の低い演技をさせたら随一と言われる俳優ニコラス・ケイジ。最近日本でも公開された『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』で愉快なキ印演技を披露してくれた彼だが、この作品でもぐらぐらに頭のネジが外れたマブい笑顔を堪能させてくれる。

しかし庭先に落ちてきた隕石なんぞにロクなもんは無い。中から人喰いアメーバが出てきたり触れた者が体中コケだらけになってしまったりブルドーザーに生命が宿って人々をぶっ殺しまくったりと、大概が悲惨な結果となるのである。ピンクの光というのもヤヴァい。P・K・ディックの『ヴァリス』でも「巨大にして能動的な生ける情報システム」からピンクの光を照射された主人公が「神からのメッセージだああああ」と何かに目覚め神狂いへと至ってしまう、という大変残念な状況を生んでいるからである。

さて映画であるが。平和に暮らしていた一家(父・母・長男・長女・次男・わんこ・アルパカ)が隕石による謎の《照射》を受け、それぞれに精神的変調をきたし、見えないはずのものを見るようになってしまう。墜落現場もじわじわと《何か》に汚染され、毒々しいピンク色の花やら虫やらが辺り一面に蠢き出す。さらに、時空さえも歪み、肉体すらも変容し、変な光がキラキラ輝き、現実それ自体がケミカル系ドラッグのバッドトリップみたいな様相を呈してくる、というわけなのである。この、《なんだかわけのわからないもの》にジワジワドロドロと蝕まれてゆく感じが大変イヤったらしく、映画の見せ所となる。

ただまあ、前半はテンポがゆっくりで(家族関係を見せたかったのか)、ちょっと暇だったのは確かだ。削ってもいいような設定があったり、ありがちな演出があったり、後半も見せ場を繋ぎたかったのかシナリオが錯綜しており、ちょいと無理矢理な感じが多少あった。ニコケイは相変わらずのブチキレ演技で、時折『マッド・ダディ』の時の演技と丸被りし、「この親父宇宙から来たナニカと関係なくそもそももとからイカレたおっさんだったんじゃないのか」とすら思わせた。まあそこはニコケイですから。だから「ラブクラフト原作映画!」というよりも「ニコラス・ケイジのいつものやつ!」と言えないこともない作品となっていた。

物語の主役たる「宇宙から来たナニカ」は実態を持たず、光や音などの波動としての存在として現れる。つまり我々とは違う次元/位相に生きる生命だということが考えられる。それが地球上の生物に憑依するなり細胞に溶け込むことにより、おぞましい肉体を持つ生命体として姿を現すのだ。汚染によりピンク色の植物が辺り一面に生い茂る光景はキング原作のSFホラー映画『ドリーム・キャッチャー』の地上を侵食する赤カビを思わせ、なんかもういろいろグチャドロになった生物はクトゥルー神話体系に影響を受けたとされる映画『遊星からの物体X』を彷彿させる。これだけでも気色悪いのにさらにニコケイが狂った演技(または素)を見せつけてくれるから作品の異様さは倍増ではないか。とまあ、ドタバタした演出さえ目をつぶればそこそこに胸糞悪い思いの出来る作品であった。

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