気分のいい日はトーキング・ヘッズを聴いている。

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音楽はその時々の気分でいろんな音源をとっかえひっかえしているオレだが、最近気分のいい日はトーキング・ヘッズをよく聴いている。

トーキング・ヘッズ、1974年~1991年に活動していたニューヨークのポストパンク/ニューウェーヴ・バンドだ。当時自分もニューウェーヴ系のバンドソングをよく聴いていたが、このトーキング・ヘッズは自分にとっては異色のバンドだった。

なぜなら、自分は昔っからブリティッシュ産のロック・ミュージックしか聴かない人間で、アメリカ産のロックを聴くのは稀だったからだ。多分自分は、ブリティッシュ・ロックの持つ、暗く美しく鬱蒼としたメロディが好きだったからなのだろうと思う。

だからニューヨークのバンド、トーキング・ヘッズの音楽が面白く聴けたのは自分でも意外だった。アメリカのバンドでそれ以外で好きだったのは、あとはザ・ドアーズとディーボぐらいかもしれない。

トーキング・ヘッズは何から聴き始めたのかよく覚えていない。1980年発表のアルバム『リメイン・イン・ライト』からだったかもしれない。当時イーノのプロデュースのもとニューウェーヴにアフリカン・リズムを導入し、相当話題になったアルバムだ。

リメイン・イン・ライト<紙ジャケットSHM-CD>

リメイン・イン・ライト<紙ジャケットSHM-CD>

 

しかしこのアルバムは確かに相当よく出来ていたのだけれども、トーキング・ヘッズというバンドそのものにハマるということは無かった。

その後「史上最高のロック映画のひとつ」と呼ばれるトーキング・ヘッズのコンサート・ドキュメンタリー映画ストップ・メイキング・センス』が公開され、同名アルバム共々またまたトーキング・ヘッズは話題となった。なにしろ当時あの辺の音楽が好きな人の界隈では相当流行ったアルバム&映画だった。オレもアルバムを買ったし映画も観に行った。実はオレも流行りモノに弱い人間だったのである。

 という訳でオレも10年来のファンみたいな顔をしながらその後もトーキング・ヘッズの新作アルバムを買い続けたのだが、実はこれがどれも、あんまり面白くなかった。それよりも、『ストップ・メイキング・センス』よりも以前の1982年にリリースされたライブ・アルバム、『The Name of This Band is Talking Heads』が、これまで聴いた彼らのアルバムの中で一番楽しめたのだ。

Name of This Band Is Talking Heads

Name of This Band Is Talking Heads

 

このアルバムはCD2枚組となるが、Disc1に1977年から1979年にかけてのライブを、Disc2に1980年から1981年にかけてのライブが収められている。このうち、バンド結成当時のライブが収録されたDisc1が特にお気に入りだった。

なんだろう、完成された『ストップ・メイキング・センス』と比べると、デビュー当時の、まだまだ荒っぽく生々しさの残るトーキング・ヘッズの曲とその演奏のほうが、彼らの【核】ともいうべきものを温存しているように感じるのだ。

トーキング・ヘッズというとデヴィッド・バーンのあの「潰される寸前の鶏の絶叫」みたいなヴォーカルが特徴的だが、初期の音源ではそのヴォーカルがより狂気のこもった調子っぱずれぶりを見せているのである。トーキング・ヘッズはもともとニューヨーク・パンクから派生したグループだが、その名の通り実にパンク的なのだ。

ただし、デヴィッド・バーンのパンクは、リビドーを持て余したティーンエージャーが暴走してみせるパンクではなく、ひ弱ないじめられっ子がブチ切れた時に見せるであろう、どこか滑稽で残念な暴発の仕方なのだ。そう、トーキング・ヘッズとは、ブチ切れたインテリ=デヴィッド・バーンが白目を剥き内股で「ムッキー!!!」と絶叫する、その情けない姿を意識的にパフォーマンスしてみせるバンドだったのはないかと思うのだ。

そのぐねぐねとひねくれたカッコ悪さがこのバンドの本質であって、『リメイン・イン・ライト』後のトーキング・ヘッズデヴィッド・バーンは「こんなシャレオツなオレッちはもうロック殿堂の仲間入りだし」とカッコつけ始めたから駄目になったんだろうと思う。

そんなわけで、デヴィッド・バーンがまだまだカッコ悪くて狂いまくっている『The Name of This Band is Talking Heads』がなにしろ楽しい。この音はカッコ悪くてあまり真っ当な社会生活者ではないオレの心にとてもフィットする。そしてトーキング・ヘッズ屈指の名曲『Psycho Killer』を聴きながら、デヴィッド・バーンと一緒に「おーほーほーほー!あいあいあいあいあいあい!!!」と絶叫するのである。こうしてオレは気分のいい日、トーキング・ヘッズを聴いているのだ。


Talking Heads - Psycho Killer (1977) HQ