料理を通して描かれるイラン女性たちの今〜映画『イラン式料理本』

■イラン式料理本 (監督:モハマド・シルワーニ 2010年イラン映画


インド料理やスペイン料理トルコ料理など、日本では馴染の薄い食材やスパイスを使い独自の調理を施した各国料理って美味しいですよね。お財布と相談しなきゃいけないのでそんなにしょっちゅう食べられるわけでもないんですが、いろんな珍しい料理を食べるのは楽しい事です。さてこの間観た映画のタイトルは『イラン式料理本』、イランの料理ってどんななの?という興味と食い意地で観てみることにしました。そして実際観てみるとこの作品、イラン料理を通して現代イランの家族の在り方を描いたドキュメンタリーだったんですよ。

監督は1973年テヘラン生まれのモハマド・シルワーニ。主にドキュメンタリーや短編の製作に携わる監督さんなんだそうです。映画はこのモハマド監督のご家族を中心に描かれてゆくんですね。

母:主婦歴40年、作る料理はラマダンの豪華料理。
母の友人:14歳の時に40歳の夫に嫁いだ彼女、作る料理は豆のピラフ。
妻:現代女性代表。作る料理は…缶詰シチュー!?
友人の母親:9歳で結婚、もうすぐ100歳。今は料理はしておりません。
妹:双子を育てながら大学に通う彼女、作るのはナスの煮込み。
義母:主婦歴35年にして5人の子供あり。作る料理はドルテ(ブドウの葉包み)、クフテ(ジャンボ肉団子)。

こうして3世代に渡るイランの女性たちが、それぞれに料理を作り(または作らない)ながら、男社会であるイスラム圏において、何を感じ、何を考えているかを語ってゆくんです。

それは自分たちがどんなに長い時間料理作りに拘束されているかということであり、母や妻とはいいながら、結局は男たちから飯炊き女扱いされていることへの不満です。大家族、来客などから、彼女たちは殆ど一日料理作りをすることを余儀なくされています。作品内では触れられていませんが、料理と並行して他の家事も彼女たちはこなしているはずです。それと同時にこの作品では、3世代に渡る女たちを描くことにより、イラン社会における女性の立場、その意見と主張が世代を経て徐々に変化していることも描かれています。世代の古い女性ほど、夫や社会からの辛い女性蔑視に耐えてきたことを語りますが、これが若い世代の女性にもなると、夫の無茶振りなんかには聞く耳を持たず、夜中の突然の来客になど対応できないわ、とレトルト食品で済ませてしまいます。

こうして映画では、古い因習に囚われつづけてきた女性たちと、そこから境遇の変わりつつある女性たちとの両方の声を描き、現代イランの女性の立場とその変遷を浮かび上がらせるのです。イスラム圏における女性の立場、というのはオレの知識では生半可なことは言えないのですが、一見ガチガチに保守的に見えるこのイスラム圏ですらも、女性平等の機運が高まってきているのは世界の趨勢なのかな、と感じました。

そういった話は別としても、イラン料理(正しくは「ペルシャ料理」になるらしいのですが、イラン映画のレビューということであえてイラン料理とさせてください)という見慣れない料理が目の前で作られていくのを見るのはとても楽しいんですよ。イラン料理は豆とお米が中心らしく、そこにターメリックやミントなどのハーブが加えられるんですね。お米中心の食文化から、日本人の自分としても大いに親近感が沸いたのですが、イラン人の生活スタイルって案外欧米人、さらに中国・東南アジア圏なんかよりも結構日本に近いものがあるんではないのかな、という印象を受けました。それとこの作品で特に楽しかったのは、画面に登場している嫁姑が皮肉言ったり一言多かったりしながら、なんだかんだで女同士の強い絆をうかがわせている部分ですね。イスラム圏の男たちは相変わらず威張り腐っているのかもしれませんが、女たちは実はずっとしたたかにそんな男たちを操縦しているのかな、と思えました。

さて、この映画のDVDにはイラン料理レシピが付いていて、このレシピの一つを相方さんに作ってもらいました。料理の名前は「ショラケバーデムジャン」、茄子とラム肉の煮込みです。とても美味しかったですよ。あ、オレも相方さんに料理作ってもらってるけどちゃんと感謝してるんだからね!威張り散らしたりしてないから!食事終わったらオレが洗い物してるし!(いろいろ弁解している)


イラン式料理本 [DVD]

イラン式料理本 [DVD]