■サイトシアーズ 殺人者のための英国観光ガイド (監督:ベン・ウィートリー 2012年イギリス映画)
この『サイトシアーズ』、殺人カップルが次から次へと人ぶっ殺しながらイギリス観光名所を巡る!?というブラック・コメディなのだが、最初はオリバー・ストーン監督の 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』みたいなキレキレのカップルが、ジョン・ランディス監督の『バーク・アンド・ヘア』みたいなイギリスらしい陰気な笑いに満ちた連続殺人を繰り広げる話なのか?と思っていたのだ。実は今挙げた両作とも個人的にはキツすぎてあんまり好きじゃない作品なものだから、どうしよっかなあとは思ってたんだが、エドガー・ライト製作総指揮ということで一応観ておくことにした。しかし実際観てみると、これが最初の想像とは違う、なんだかユルくてミョーな味わいのある作品だったのだ。
主人公となるのは付き合い始めたばかりのカップル、ティナ(アリス・ロウ)とクリス(スティーヴ・オーラム)。まず、この二人が果てしなくイケテない。華が無くて地味でセンスが悪くてビンボ臭くて多分アラサーで若さすらない、そんな魅力と呼べるものが何一つない、平凡だけがただ一つの取り柄のカップルなのである。そんな二人なのだけれども、なんだか楽しそうだし幸せそうだ。二人が幸せなのなら、それでいいんじゃないかと思う。そう、この物語の主人公たちは、血に飢えた狂人というわけでも、貧困や不幸などのルサンチマンにまみれた連中というわけでもない。何一つ特殊でもなく特徴もない、どこにでもゴロゴロ転がっているカップルなのだ。そんなごく普通である筈の二人が、なぜだか簡単に人殺しを始めちゃうのである。
この、それまで普通の人でしかなかったこの二人が、特に説明も無く唐突に殺人鬼になる、というのが奇妙なのだ。しかもこれらの殺人が、どうにも簡単な理由で、何の迷いも無く行われるのである。彼らが殺す相手はいわゆる「ムカツク奴」なのだが、その程度でぶっ殺さないだろう、といった程度の「ムカツク奴」なのだ。単なる短絡殺人ということなのだろうが、それにしても二人のキャラクターに短絡的殺人者という背景が描写されていないため、ごく普通の幸せそうなカップルが単純な理由で突然人を殺し、良心の呵責が一切無いまま次の観光名所へルンルンと旅立って行く、といったシュールな光景が繰り返されるのだ。そしてその観光名所というがまた、人気も少なく妙にショボイ名所、というのがビンボ臭いこの二人らしく、物語のしょーも無さをさらに引き立てる。
ある意味これらの殺人は「妄想の中の殺人」に近い。「死ね!」「ぶっ殺してやりたい!」と思うことはあっても、普通人は人を殺さない。しかしこの映画ではその「死ねばいいのに」とちょっとだけ思った感情をそのまま実行しちゃったら…という部分を描いたのだろう。そういった部分でこの作品は《殺人ファンタジー》ということができるかもしれない。だからこそ妙に軽く、悪びれることがないばかりか、ほんわかすらしているのだ。面白いのは、ティナとクリスの、男女の違いによる殺人の理由付けだ。クリスはモラルやメンツなど「男の社会的立場」から人を殺すが、ティナの理由は「クリスに自分だけ見てほしい」という女性的なコミニュケーション欲求からくる殺人だったりする。こういう区分けも上手いが、でも殺人は殺人だろ…としか思えなくて、それがまたこの作品の奇妙な可笑しさであったりするのだ。
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