ダメダメ男とハチャメチャ爺さんの運命の出会い〜『レオン・ラ・カム』

■レオン・ラ・カム / シルヴァン・ショメ作 ニコラ・ド・クレシー画

レオン・ラ・カム

  • この『レオン・ラ・カム』は『ベルヴィル・ランデブー』『イリュージョニスト』のアニメーション監督シルヴァン・ショメが原作を、『天空のビバンドム』『氷河期』のニコラ・ド・クレシーがグラフィックを担当したBDなんですね。物語はド・クレシー流のファンタジーではなく、原作であるショメならではのグロテスクでちょっとひねくれた人間模様を描きます。
  • 主人公は化粧品会社を経営する親父の七光りで広報担当をやらせてもらっている息子のジェジェ。実はジェジェは気の弱い役立たずなダメ男なのですが、そのジェジェの勤める会社にある日、会社の創立者でありジェジェの祖父でもある御年99歳のレオン爺さんが数十年にわたる放浪の旅から帰ってきます。あまりに破天荒な行動と言動を繰り返すレオンにジェジェは次第に惹かれて行き、いつしか二人は意気投合、勢いに乗ったジェジェはダメ男返上とばかりに行動を起こすのだが――というもの。
  • こうやって粗筋を書くと普通の人間ドラマのようなのですが、実はまるでそうじゃないんです。まずジェジェのダメっぷりはもはや同情も起きないぐらいヘタレをこじらせており、読んでいてイライラしてくるばかりか、なんとなく気持ちの悪い男でもあるんです。
  • そしてそのジェジェのお爺さんであるレオン。彼は、破天荒どころか、どこか異常で、異様な雰囲気を持つ爺さんなんですよ。冗談めいたことをしてもまるで笑えないばかりか背筋が寒くなるような狂気めいた部分があり、皺だらけの顔は笑っているように見えて目つきが暗く暴力的だったりするんですね。そもそもタイトルである『レオン・ラ・カム』って「麻薬のレオン」って意味で、そんなわけですから気が向いたらハッパふかしてるだけでなく、ジェジェにも「これ吸ってお前も男になるんじゃ」とばかりに一服吸わせ、ジェジェはジェジェでハッパが相当気に入って躁状態でおかしくなっちゃったりしてるんですよ。
  • しかしおかしいのはこの二人だけじゃありません。兎に角登場する人物誰もがどこか狂っていて異様でグロテスク、まあ要するにまともな人間が殆ど出てこないキチガイじみた物語ってことなんですよね!
  • しかしある意味、レオンはジェジェに「この世界はこんなにキチガイじみているんだから、いちいちまともに受け止めないで堂々としてりゃあいいんだ」って教えているのかもしれないんですよね。どこかキチガイめいて見えるにせよ、レオン爺さんは決して回りに迎合せず、たいていの決まりごとは笑い飛ばすアナーキーさと自由さを持ち、さらに「人生は楽しむもの」ということを知っている爺さんでもあるんです。
  • しかし、そのレオン爺さんが工場の毒ガスを吸ってボケを悪化させ、さらにその頃自信の付いたジェジェに恋人が出来たことで、単にグロテスクだった物語は一変します。物語は突然、老いの衰えの悲しみと絶望の物語へ、そして真の幸福を見つけたジェジェの固い信念の物語へと変貌してゆくんです。即ち、後半までのグロテスクの饗宴の物語はあくまで前フリに過ぎず、終盤になって実はその物語が主人公たちの魂の核心を描く物語だったということに気付かされるんですね。特にラスト数ページの展開には鳥肌が立つほど心を動かされました。
  • しかも実は、この『レオン・ラ・カム』、この1冊で終わりじゃなくてまだ続きがあるそうなんですよ。もはやすっかり廃人となったレオン爺さんと、美しい恋人との幸福のために自分の人生と戦うことを決意したジェジェのこの先に何が待っているのか、早く続編の日本語訳を期待したいです。

レオン・ラ・カム

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