最近読んだBDやらアメコミやら〜『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『プロレス狂想曲』『ベルベット』

■続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン / アラン・ムーア (著)、ケビン・オニール(画)

続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

アラン・ムーア入魂の名作、続編も待望の復刊! 新たなる脅威の到来に、我らが怪人連盟が再び招集された。筆舌を絶する古今未曾有の恐怖に対し、彼らはいかに立ち向かうのか? 短編小説『新刊行便覧』付録『怪人連盟遊戯盤』も同時収録。シリーズ第二巻、10年ぶりの復刊!

前作『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』は文句なしの傑作だった。大英帝国ビクトリア朝時代を舞台に、アラン・クォーターメン、ネモ船長、ジキル博士とハイド氏、透明人間、さらに吸血鬼ドラキュラのヒロイン・ミナといった、英国作家の手によるフィクション世界の主人公たちが一堂に会し、大英帝国の繁栄を脅かす敵を倒すといったストーリーは、作品全体にスチームパンクのテイストを配し、「古くて新しい空想の大英帝国」をそこに現出させていた。そして前作では魔人フー・マンチューがその敵役だったが、なんと今回はH.G.ウェルズの『宇宙戦争』で描かれた火星人が敵役として登場し、前作を遥かに超えるスケールでロンドンを蹂躙してゆくのだ!毎回古きイギリスを彷彿させるSF・推理・怪奇小説の小ネタがとどまるところを知らぬ量で散りばめられるこの作品だが、さらに今作では「火星しばり」ということで、火星を舞台にしたプロローグで物語られるのはE.R.バローズの「火星シリーズ」の様々な登場人物と小ネタではないか!このプロローグで描かれる幻想の火星が実に楽しい。そして舞台を地球に移し、小説『宇宙戦争』そのままに殺戮と破壊にさらされるイギリスを死守せんと活躍するLoEGの面々だが、ここで切り札としてもう一つのウェルズ小説の登場人物が担ぎ出される。ただ、一緒に登場するその物語のあれやこれやの怪物たちのグラフィックというのが今一つで、ちょっとシラケないこともない。それよりも今作のもう一つの主眼となるのはLoEGの面々の人間関係だろう。前作では癖のある者同士困難に向かって協力し合っていたのだが、やはり他人と協力なんかできない面々ばかりのせいか、今作では各々のスタンドプレイが遂にその同盟の瓦解にまで発展してゆくのだ。それがどんな形で終極を迎えるのかが今作の見所となっている。

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン

■プロレス狂想曲 / ニコラ・ド・クレシー

プロレス狂想曲 (ヤングジャンプコミックス)

強さと美しさを競うプロレスは誰もが憧れる華の世界。しかし、その世界を牛耳っているのは誰もが恐れるマフィアだった! マフィア一族のおちこぼれマリオは、両親の残してくれたピアノ店を継ぎ、華々しい世界とは無縁の生活を送っていた。唯一の友達はピアノ弾きのペンギンだけだが、彼はそんな生活も気に入っていた。そんなある日、マフィアのボスでマリオの甥っ子であるエンゾから呼び出しがかかる。「手紙をある女性に渡して欲しい」そのミッションはとても簡単なものと、マリオは浮かれて街を出て行くが待っていたのは見たこともない、恐怖と不思議の世界!

BD界の鬼才ニコラ・ド・クレシーが、なんと日本の漫画雑誌「ウルトラジャンプ」で連載を持っていたのらしい。タイトルは『プロレス狂騒曲』であり、これはその単行本となる。日本の雑誌連載らしく冒頭のカラーページ以外はモノクロのペン画となっている。まあこうしなければ雑誌連載は厳しかっただろう。物語はクレシーらしい摩訶不思議で奇々怪々なものだ。大筋ではマフィア一族の落ちこぼれのおっさんが一族から裏切られ、仲間たちの強力なプッシュで嫌々報復を図る、といったものだが、とにかく登場人物たちが皆おかしい。主人公マリオは2頭身のハゲメガネだし、その友人はピアノを弾くペンギンだし、マリオが憧れるのは女子プロレスラーだし、マフィアのドンは幼児だし、マフィアの構成員はプロレスラーだし、マリオを追い掛け回すのは改造人間で、そのマリオに協力するのはなんと「オバケ」である。それぞれのキャラの存在には何の必然性も無く、はっきり言って訳が分からない。そして物語の流れも唐突で脈歴に欠け、これも訳の分からない部分が多い。しかし訳が分からないのはいつものクレシー節であるのも確かで、クレシー・ファンはただそのハチャメチャさを楽しめればいい。また、ハゲメガネの主人公も含めかつてのクレシー作品に登場したキャラがちらほら垣間見えるのも楽しみの一つだろう。ただ逆に、クレシーを知らない日本の漫画雑誌ファンにはこの物語は相当キツかっただろうな、ということも想像でき、みんなどんな顔をしてこのコミックを読んでいたのだろうという興味が湧く。そんな訳で、価格も1000円とお得ではあるが、クレシーを知りたい、という方にはむしろ『天空のビバンドム』あたりの濃厚な作品に触れてもらいたいのだが、ううむ、あれも相当訳の分からない超現実的な物語だったしなあ…。

プロレス狂想曲 (ヤングジャンプコミックス)

プロレス狂想曲 (ヤングジャンプコミックス)

天空のビバンドム

天空のビバンドム

■ベルベット 1 / エドブルベイカー(作)、スティーブ・エプティング(画)

ベルベット 1

キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』のライターとアーティストが贈るスパイスリラー! 時代は1970年代、冷戦の真っ只中。世界最高と言われる諜報員が殺された。真相の解明を急ぐ諜報組織アーク7。 証拠の数々から浮かび上がった容疑者は何と、アーク7局長の秘書ベルベット・テンプルトンだった。謎に包まれたベルベットの過去が暴かれていく...

コミックは未読だが、映画のほうの『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』は、アメコミ世界に陰謀術策渦巻くスパイ・スリラーの要素を加え、そこが斬新さとしてウケたのだろうが、逆にオレなどはスパイ・スリラーものに慣れ親しんでいた部分があったので、なんだ今更という気がしてたいした新鮮味を感じなかった。この『ベルベット』は、『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』のライターとアーティストの手によるスパイ・スリラーとなり、タイツ姿のヒーロー抜きでどこまでこのジャンルの面白さを引き出せるかを試したものなのだろう。しかし結論からするとスパイ・スリラーの常套句をなぞったステレオ・タイプな物語に終始しており、やはりこれも新鮮味の薄い物語に仕上がってしまっている。そのステレオ・タイプから脱却しようとして生み出されたのが主人公キャラであるベルベットとなるが、スパイ活動のエキスパートとして描かれる彼女はいくらでもアメコミ・ヒーローと交換可能で、むしろアメコミ・ヒーローでない分華もなく魅力に薄い。ルックスも普通におばさんなんだもんなあ。これじゃなあ。

ベルベット 1

ベルベット 1

キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー (ShoPro Books)

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