ゾンビ・コミック2連発〜『ウォーキング・デッド 3』『アイアムアヒーロー 10』

ウォーキング・デッド 3 / ロバート・カークマン


ゾンビ禍により崩壊したアメリカの大地を彷徨う人々の悲痛な運命を描く大河ゾンビ・コミック、TVドラマ版も好調らしい『ウォーキング・デッド』の日本語翻訳版第3巻が発売されましたねえ。なんでもあとがきによると「本国アメリカでは2003年10月から月刊ペースで発行されていて、2012年10月で103巻を数え」るシリーズだということなんですが、この日本版3巻ではやっとアメリカ版54巻まで辿り着いたというわけです。でも本国版が完結しているわけでもないから先はまだまだ長いということなんですね。この日本版もまだ第3巻とはいえ、相当重量級でたっぷり濃い物語展開になっており、目まぐるしく変化してゆく状況に翻弄される登場人物たちの悲劇に次ぐ悲劇の様子を克明に描いているんですね。
まあこの第3巻では刑務所に腰を落ち着けた主人公たちの束の間の平和が冒頭に描かれ、この平和がいつまでも続いてくれたら…と人々は願うわけなんですが、そうは問屋が卸しません。そう、前巻でそのキチガイぶりを余すところなく発揮した「提督」の軍団が遂に刑務所に隠れ住む主人公一行を発見し、「皆殺しだあああ!」の号令一下、戦争をおっぱじめるわけですよ!そしてまたまた繰り広げられる残酷極まりない運命!…というわけなんですが、それにしてもこのコミックは最悪の状況からさらに最悪の状況へと渡り歩き、安心させたと思ったら突き落とし、の連続で、結局は毎回いちから出直しさせられるところが酷なんですよねえ。
この酷なところがホラーなんでしょうが、読んでいて思ったのは、「こういう毎回ご破算にしながら負のスパイラルに落ちてゆくだけの物語なのかあ?」ということで、「で、ずっとこの繰り返しなの?」ということなんですよ。いつまでもスパイラルで物語の核心が見えてこない。そして主人公(とその家族)に物語をクローズアップさせることに固執してしまい、ミショーンみたいな面白い脇役を登場させても上手く使っていない。だから長大な物語なのに物語の変転はあっても膨らみに乏しい。つまりはなんだかだんだん飽きてきちゃったんですよね。ん〜なんだかなあ、次巻も読むかどうかわかんなくなってきたなあ。それとグラフィックが、ゾンビよりも人間のほうが怖い顔で描かれてて…。

ウォーキング・デッド3

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ウォーキング・デッド

ウォーキング・デッド

ウォーキング・デッド2

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アイアムアヒーロー (10)/ 花沢健吾

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)
さて『ウォーキング・デッド 3』と同時期に発売された花沢健吾のゾンビ・パニック・サーガ『アイアムアヒーロー』第10巻。ゾンビ出現により崩壊した世界で、ダメ男・鈴木英雄はどう成長するのか?いや全くしないのか?主人公が、彼の名前・英雄=ヒーローのダブルミーニングとなったタイトルからうかがわせるような、"ヒーロー"になることができるのか?というお話なんだと思うんだけど、『ウォーキング・デッド』がある意味無法と化したアメリカ国家を通じて「アメリカ西部開拓史」の再話、もしくはアメリカというもののオリジンを描こうとしているのに比べて、より読んでいる日本人にとっては同時代的な作品として読めます。当然日本が舞台だから、というのはありますが、物語に頻繁に登場する、2ちゃんねるを思わせる巨大掲示板の描写が、現実でもその掲示板を利用しているような、名前もなく社会的に力もない若者たちの存在を浮き上がらせ、主人公と同年代の青年、もしくは主人公と同程度にダメダメだった経験のある人間にはより身近な物語として読めるんです。
それを如実に感じさせたのがこの10巻から突然始まる新章「来栖編」ですね。ここで登場する来栖なる少年は、以前から作品の中にちらちらと存在を匂わせていたけれど、ここにきてやっとその正体を明らかにします。生存することの確信と技術を併せ持ったこの奇妙な少年は、ネットで賛同者を集め生き残りたちの王国を作ろうとするんです。そしてそこに集まる者は多分かつて名もなく力もない、そしてダメダメだったのであろう若者たちなんですね。この「来栖編」は、これまでドキュメンタリー・タッチでゾンビとの戦いと逃走を描くこの物語の路線を別方向へとシフトさせようとしています。それが作品クオリティにどのような影響をもたらすのかはまだわからないのですが、少なくとも終局へ向けて作者にある種の構想が存在していることは確かでしょう。そういった意味で『ウォーキング・デッド』における”似たような危機展開の繰り返し”よりははるかにましに読めましたねえ。

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)