『アイアムアヒーロー』は数多のゾンビ物語に引導を渡し終焉をもたらす予感がする

■ゾンビ・ジャンルってどうよ?

ゾンビゾンビで半年暮らし、あとの半年ゃあ寝て暮らす。そんなゾンビライフ華やかしき時代も今は昔である。えーっと、なんとなくゾンビには飽きてきた。いや、近々公開されるゾンビ映画ワールド・ウォーZ』は必ず見に行くけど。あれ原作が大傑作なんですよ。でもさあ、秋に公開されるというゾンビ映画ウォーム・ボディーズ』って、"ゾンビ版ロミオとジュリエット"だって?"キュートなゾンビ男子が人間にひと目ぼれ"ってどゆこと?まあ観てもいない映画に苦言を呈してもしょうがないが、いよいよゾンビ・ジャンルも末期だよな、という気がしないでもない。ゾンビ映画もあれこれやりつくしてもはや変化球投げる事しか思いつかないのかもしれない。
だいたい"ゾンビ"って言わないで"感染者"とか言い始めたころから雲行きが怪しくなってきたのである。感染者。しゃらくせえ。しかしいくら名前を変えたってゾンビはゾンビ、それはあくまでゾンビ・ジャンルなのであり、決して感染者ジャンルなどと呼ぶ人間などいないのである。パンティーのことをショーツとか言い換えたってパンティーはパンティーなのと一緒なのである。むしろ意地でもショーツなんぞと呼んでやるものか、例え世界を敵に回してもパンティーと呼び続けてやるとさえオレなんかは思うわけである。
まあパンティーのことはどうでもいい。ゾンビの話である。ついこの間もPS3のゲーム『THE LAST OF US』っちゅう感染者、もといゾンビゲームやったんだけどなー、とてもよく出てきてたし意外なクライマックスを迎えてそこそこ楽しめたんだけれども、やっぱりさー「あ゛〜」とか「う゛〜」とか言ってのそのそ動いているゾンビの皆さんにもうあんまり新鮮味を感じなかったんだよな。それとかやっぱり秀作ゾンビゲーム『デッドアイランド』というがあって、それはとっても楽しくプレイしていたんだけれど、その続編の『デッドアイランド: リップタイド』ってェのがついこの間出たんだけど、こっちは全然食指が動かなくてさ、「あーまたあのゲロゲロ小汚いゾンビの皆さんとうじゃうじゃまみえるのかー」とか思ったら、もういいや、って思っちゃったのね。じゃあゾンビよりも気色悪いバケモノばっかり出てくるようになった『バイオハザード』シリーズはどうかというとやっぱりもうやる気しないんですよ。なんかそのぐらいゾンビに飽きてきてるのよ。
それとかこの間レヴュー書いたアメコミの『ウォーキング・デッド』、あれもしっかりどっしり作られた大河ゾンビコミックで、ゾンビそのものよりも人間同士が対立するドロドロのドラマが面白かったりするんだが、ちょっといただけなかったのはゾンビ出現で世界が破滅してずいぶん経つだろうに未だに草叢から出てきたゾンビに齧られちゃう迂闊な奴が描かれているって所なんだよな。あんだけ大変な目に遭ってるはずなのに学習してないの?バカなの?死ぬの?っていうか死んでんじゃん?でも逆に学習したらゾンビとの力関係が拮抗しちゃって、今度はゾンビが脅威じゃなくなってしまうから、物語が成り立たなくなってしまうのよ。だからゾンビのドラマはいつまでも人間がバカみたいに齧られ続ける以外になかったりするのよ。その辺、ゾンビとの徹底対決を世界規模の視点から描いた(小説のほうの)『ワールド・ウォーZ』はいっこ頭が突き抜けてたのね。

■そこで『アイアムアヒーロー』なんだが

そんな訳でやっと『アイアムアヒーロー』の話になるんだが、この物語、これまでのゾンビ・ストーリーに感じていた不満があれこれクリアされていて、そういった点がとても新鮮に感じるのだ。ゾンビが発生した時のパニック描写にも独自の物を感じたが、その後生き残った人々が「どうゾンビと対峙してゆくか、どうゾンビを警戒し、どう身を守り、どう倒してゆくか」というサバイバルのノウハウがきちんと考察されているのだ。アメリカのように豊富に銃がない状況で、日用品だけを使いゾンビと相対するにはどういすればいいのかがきちんとリアルに描かれている。そしてそんな人々の日常が非常に生活感に溢れている。これらの描写力が素晴らしい。
さらにゾンビ(この物語ではZQNと呼ばれるがその呼び名も堅苦しくなく無理が無くていい)の生態の描かれ方もこの物語ならではの味付けが成されている。ゾンビたちはゾンビ化前のその人間が持っていた最も強迫観念的な事柄を片言で呟く。無意味な片言を呟くゾンビはやはり不気味だ。そしてゾンビ化前の身体能力がゾンビ化した後に存続され、それによりゾンビそれぞれの攻撃方法に個性が出てくる。併せて、ゾンビの思考にまで踏み込みその心象風景を描こうとする。その歪んだ光景もまた恐ろしい。さらに画期的なのは、半人間半ゾンビな個体の存在だ。この12巻ではそれがクローズアップされ、新たな展開を迎えることになる。これは今後、なぜゾンビは発生したのかにまで肉薄するのかもしれない。
要するにこの『アイアムアヒーロー』は、これまでのゾンビ・ストーリーで安易にやり過ごされてきた事柄にきちんと考察を加え、数多のゾンビ・ストーリーそのものに落とし前をつけようとしているのだ。これはもうこれまで最強のゾンビ・ストーリーということはできないだろうか。この辺の違いというのは、例えばアメリカのゾンビ・ストーリーというものが、基本的にキリスト教的な神無き終末世界を描くことに腐心しているのに対し、花沢健吾が描くそれは、あくまで日常の延長としての壊滅的な災厄を描くところに主眼が置かれているからなのではないか。だからこそのリアリティなのではないだろうか。そういった意味でこの物語は非常に考え抜かれたゾンビ・ストーリーであり、考え抜かれているからこそ、これまでのゾンビ・ストーリーを過去のものに変え引導を渡すほどの完成度を誇っているのではないか。即ちこの『アイアムアヒーロー』は、これまで描かれてきた全てのゾンビ・ストーリーの中でも最高のものだということができるのだ。
まあしかし、オレは毎度思うんだが、ゾンビってなんで腐って無くなっちゃわないの?やっつけるにしたって、ガソリンぶん撒いてまとめて燃やしたりブルドーザーで踏み潰したほうが早いんじゃないの?その辺どこかでやってくんないかなあ。

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

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WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

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DEAD ISLAND 【CEROレーティング「Z」】

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ウォーキング・デッド

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