甘ったれてたっていいけどそれだけの作品ならちょっと退屈だ〜小説『イー・イー・イー』

■イー・イー・イー / タオ・リン

イー・イー・イー

イー・イー・イー

前向きに生きられない奴にはうんざりだ。しかし前向きに生きようとばかり言ってる奴もうんざりだ。それは前向きに生きる・生きられないの間には、本当はたくさんの言葉が存在していて、その言葉を無視していきなり単純化された言葉だけを突きつけられどうこう言われるのは真っ平だってことなんだ。
タオ・リンの小説『イー・イー・イー』は、前向きに生きられないカスな青年が主人公だ。物語らしい物語があるわけではない。いわゆる青春期の憂鬱と鬱屈が描かれているんだ。時折熊やイルカやヘラジカが登場して奇妙なファンタジー展開になったりするが、まあこれらは主観的に描かれたこの物語の客観視された主人公であったり願望の中の主人公であったりするんだろう。しかしそれ以外は特に芸はない。青春期の憂鬱や鬱屈は、それは誰もが経験するものであろうし、それを否定したり軽んじる事は出来ないとしても、これを小説作品という商品として売るのなら、なにかもうちょっと芸のあることをしてくれないと読んでいるこっちは楽しめないし金を払う意義を感じない。いろんなロック・バンドの名前が主人公の心象の一部のように語られるけれども、この小説を読むよりそれらのロック・ミュージックを聴いていたほうがまだそれら鬱屈やらなにやらの状況に感情移入できるんじゃねーのと思った。