■ウェディング・ベルを鳴らせ! (監督:エミール・クストリッツァ 2007年セルビア・フランス映画)
アサーーーーッ!!セルビアの辺鄙な村(ソン)に住むじっつぁま・ジヴォインには、いつもボケッとした顔の孫、ガキ夫ことツァーネがおったのじゃ。いつも「オラオラオラオラオラ」だの「オドリャー」とか言ってるガキ夫ことツァーネの将来を、じっつぁま・ジヴォインはとても心配しておったのじゃ。こんな寂れた村(ソン)におっては嫁っ子も来ん・・・。そこでじっつぁま・ジヴォインはガキ夫ことツァーネに「牛の"たろ"を連れて町へ行ぐッぺ。んで、"たろ"ば売って土産を買い、さらにピチピチに熟れた娘っ子ばかどわかし、嫁にして連れてくるべ」と命令するのじゃ。町へ出たガキ夫ことツァーネ、「いやー、都会は凄いっぺ」などときょろきょろしておると、目に付いたのがド助平そうな唇したボンッキュッボンッな美女、花っぺことヤスナ。「鼻血ブーーーーッ!!」ガキ夫ことツァーネは早速股間をモッコリさせ、花っぺことヤスナを自分の嫁にすることに決意したのじゃ!しかし何事も簡単に行くモンではない。実は花っぺことヤスナは、ロシアやくざに狙われておったのじゃ…。
サラエヴォ出身の鬼才・エミール・クストリッツァ監督によるハイパー・スラップスティック・マジックリアリズム・コメディ。日本タイトル「ウェディング・ベルを鳴らせ!」からはよくあるラブ・コメディのような印象を受けるが、実際の作品はそんな括りに囚われない自由奔放な想像力と、コミックやおとぎ話を思わせる非現実的な展開、そして最初から最後までドタバタジタバタと狂騒的に物語がはねまわる、どこまでも陽気で気違いじみた作品として完成している。実はこの監督の作品を観たのが初めての不勉強なオレなんだが、あまりの生命感溢れるパワフルかつ独特な話法に、他の作品も観てみたくなった。
なにしろ冒頭からジヴォインじっつぁまの荒唐無稽な発明が次々に繰り出され、登場する人物は誰もがどこかタガの外れたような素っ頓狂な連中ばかり。主人公のツァーネはいつもドリフのコントみたいなベタなドジばかりやってるし、そのツァーネが町に出て世話になるハゲ坊主兄弟はなんだか頭がイっちゃってるし、敵役のロシアやくざの間抜け振りは殆どマンガという有様。そしてクライマックスでは村の楽隊がブガチャカブガチャカと脳天気な演奏を繰り広げる中、マシンガンが乱射されロケット弾が乱れ飛ぶという壮絶な戦闘まで描かれるというのに、なぜか誰一人死ぬことも無く、ラストは村中の人間がひゃっほうひゃっほうと踊り回るひたすら明るいハッピーエンドを迎えるのだ!さらに映画の最中、いつも空には意味不明のコウモリ男が飛んでいる…。なんなんだこの映画は!?
まあ言ってしまえば「ホラ男爵の冒険」みたいなヨーロッパ風のどこまでも大袈裟なホラ話を現代風に描いてみたということなんだろう。劇中でも「雪の多い地方だから楽しいホラ話をして皆で楽しむのさ」なんて言っているくだりもあったけど、歴史的にも様々な悲劇を体験してきている旧ユーゴスラビアの民族性があればこそ、逆にこういった爆発的に明るくて、どこまでも前向きなハチャメチャのバカ話を望む気持ちが監督の中にあったのかもしれない。それにしてもヒロイン・ヤスナを演じるマリヤ・ペトロニイェヴィッチのリブ・タイラーをもう少し清楚にしたような美形ぶりが実に麗しく、映画の間中目からハートマークを出していたオレである(一緒に観に行っていた相方スマン…)。ただこんな美女がボンクラ面の主人公の嫁になるという展開が、この映画で唯一納得出来ないオレであった。