『ウォッチメン』の正しい現代版解釈は『ミステリー・メン』にあった!?

■ミステリー・メン (監督:キンカ・アッシャー 1999年アメリカ映画)


そこは近未来の都市チャンピオン・シティ。暗い闇に日本語のネオンが妖しく踊りリキシャが走る、あたかも「ブレードランナー」の如きその街に、「ウォッチメン」を髣髴させる苦悩とルサンチマンを抱えたリアル・ヒーロー達が集い、「ダークナイト」のジョーカーを思わせる凶悪な犯罪者を追い詰める!しかし現実のしがらみから逃れられないヒーローたちは巨悪に対してあまりにも無力だった…。真の正義とは何か!?スーパー・ヒーローとはどうあるべきなのか!?1999年、映画「ウォッチメン」よりも10年早く製作され、早すぎたあまりに世間から黙殺された、スーパー・ヒーロー・ストーリーの知られざる問題作、それがこの「ミステリー・メン」だッ!?

…えー、盛り上げるだけ盛り上げといてなんなんだが、実は単なるバカ映画である。だってほら、なんたって「トロピック・サンダー」のベン・スティラーが主演だし。で、とりあえず面白いのか?と訊かれると、う〜ん、海外バカ映画擁護派のオレでさえ「ここまでユルくてグダグダのグズグズいいのだろうか…?」という眩暈にも似た危機感を感じたというC級映画である。なんとか面白いことをしようとあれこれ小ネタをひり出しているのだがことごとくハズしまくりのスカしまくり、案の定本国では大コケ、もはや箸にも棒にもかからないダメダメバカ映画という事も出来る。だがしかし、それでもなお、オレはこの映画には愛すべきところがあると思う。なんかこのダメさがまたいいのよ…同じダメダメ人間として、傷口を舐め合うような心地よさがね…ウフフ…。

というわけでその愛すべき登場人物たちを紹介しよう。
・まず主人公ミスター・ファリアス(ベン・スティラー)!彼の特殊能力はブチ切れ易いこと!しかしブチ切れるのはいいがヘタレ野郎なんでいつも空回りばかりだ!
・怪しいインド人のコスチュームを着たブルー・ラジ!彼の特殊能力はフォーク投げ!あとスプーンも投げちゃうよ!
・シャベル使いのエド!彼の特殊能力はええとその名の通りシャベル振り回すことです。職業は勿論ドカタです。
・スプリーン!彼の特殊能力は標的選択可能で遠射程の気絶するほど臭い屁!…ええと下品でスイマセン…このスプリーンは元ピー・ウィー・ハーマンことポール・ルーベンスが演じてるぞ。
・そして透明少年!おおっとやっとスーパー・ヒーローっぽいヤツ出てきたじゃん!でもこいつ人の見てない所じゃないと透明になれない…ってダメじゃんそれ!
・紅一点のボウラー・カロライン!彼女は父の髑髏が埋め込まれたボーリング玉で敵を倒す!そして髑髏のお父さんと時々会話してます。
・そして伝説のヒーロー、スフィンクス!こいつは強い!手を触れることなく拳銃を真っ二つ!このスフィンクスが負け犬ヒーローたちをまとめ、特訓するんだが、そんなに強いんならアンタが最初から敵と戦えよ…。

とまあ、こんなビミョーな連中が、ビミョーなコスチュームを身にまとい、ビミョーな特殊能力を駆使して、ビミョーな戦いを繰り広げるという、なんかもうひたすらビミョー尽くしのビミョーな映画、それが「ミステリー・メン」なのだ!っていうか「ミステリー・メン」というより「ビミョー・メン」のほうが内容を表したタイトルだと思うけどな!でもこの「ミステリー・メン」は3流だけれども生活観に満ちたヒーロー像ということでは「ウォッチメン」と通じるところがあると思うし、逆に「ウォッチメン」が冷戦構造のペシミズムから"正義"というものの客観主義と相対主義という罠に陥り、それが「ダークナイト」にまで及んでしまった事を考えると、ダメでもバカでも無批評でも、「でもやるんだよッ!」という一点突破で状況を打破しようとしているところが実に潔く清清しく見え、少なくてもそこだけは「ウォッチメン」と「ダークナイト」を超えているんじゃないかと思うんだけど。まあ無為無策の特攻精神は単なる犬死にになる可能性大だけどな!でもやるんだよッ!!