道具づくし / 別役実

道具づくし (ハヤカワ文庫NF)

道具づくし (ハヤカワ文庫NF)

お次の”づくし”は『道具づくし』である。日本において古来より人々の身の回りで使用されていたが、現在ではすっかり忘れ去られ失われてしまった様々な”道具”を紹介し、それらが生活の中でどのように使用されていたのかを解説する書である。しかしそこは別役実、ここで紹介されている道具も使用法も全て嘘っぱちのものであり、最初から存在などしていないものを妄想だけでああだこうだと書き連ねているのである。もっともらしく書かれているが、どう考えたって何の役にも立っていないようなものを、あたかも人々の生活に密着していたがの如く並べ立てているその筆致は既に”駄法螺”の域に達している。

ここでも別役実は徹底してナンセンスさを押し通しているが、先に紹介した『虫づくし』『もののけづくし』に比べると、架空のものをあたかも現実にあるように説明するといった点で、ある種SF的でさえあるのだ。そう、これまで別役の”づくし”シリーズを読み重ねて気付いたのだが、彼の書いているものは、物語さえないにしろSF的な発想があるような気がするのだ。だって発行している出版社はあの早川書房だ!かの出版社にこの”づくし”シリーズが持つSFの臭いを敏感に嗅ぎ取った編集者がきっといたに違いない。

この『道具づくし』における創作というかでっち上げの仕方も振るっている。古くは平安時代から伝わるという道具まで出てくるが、それを説明する為に当時の実在の文筆家が書いたとされる架空の文献や架空の歴史的変遷、人々に伝わっていたとされる架空の口碑、歴史上の人物が使ったとされる架空の来歴、などなどの駄法螺で塗り固められた嘘の道具の歴史が語られているのである。しかも、どう読んだってそんなことは有り得ないだろ、というすぐ分かるような嘘のつき方でだ。「想像力に驚嘆する」といった言い方があるが、別役の場合、「妄想力に呆れ返る」と言ってあげたほうがいいかもしれない。ある意味奇書であるが、こういう本が存在するのは愉快なことである。