愛はステロイド (監督:ローズ・グラス 2024年イギリス・アメリカ映画)

映画『愛はステロイド』は、トレーニングジムで知り合った二人の女性の愛が、とんでもない方向へと暴走してゆくスリラー作品だ。アメリカ南西部、ジムで働くルーは、ボディビルを目指すジャッキーと激しく恋に落ちる。しかし、ルーの犯罪一家の父親の影が二人を飲み込み、愛は暴力と破滅へ加速してゆく。出演はクリステン・スチュワート、ケイティ・オブライアン、エド・ハリスほか。監督ローズ・グラスは『セイント・モード/狂信』で注目された気鋭のイギリス人監督。クィアの視点から、ジャンルを大胆に横断する作風が特徴だ。
男性中心・父権社会における女性の生きづらさと、抑圧の中の性愛というテーマは切実であると同時にありがちになる危険性がある。ここをどう料理するのか?という点を興味の中心として観ていた。まず、主人公の一人が女ボディービルダーという設定が異彩を放つ。やがて物語は行き過ぎた「反撃」へと加速し、主人公二人は追いつめられてゆく。この辺りまでは普通にスリラー展開なのだが、最後の最後で完全に呆然としてしまった。予想の斜め上をいく、「なんだこれは」と言いたくなるような突き抜け方。ユーモアすら感じさせるほどに奇妙で、グロテスクで、でもどこか解放的。まさに「怪作」と呼ぶにふさわしい作品だ。
ローズ・グラスは、クィア・ロマンスとノワール・スリラーを融合させながら、ステロイドのように膨張する愛と怒りを描ききった。クリステン・スチュワートのクールで内省的なルーと、ケイティ・オブライアンの肉体派ジャッキーのケミストリーも圧巻。エド・ハリスの恐ろしくもカリスマ的な父親像が、すべてをねじ曲げる。よくあるフェミニズム・ストーリーかと思いきや、肉体改造、ステロイド、暴力、家族の呪縛が絡み合い、予想不能のブラックユーモアとカタルシスを生む。観終わった後、しばらくお口ポカーンとさせられるような、稀有な体験を与えてくれる一本だ。
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン (監督:アナ・リリー・アミールポアー 2022年アメリカ映画)

12年間精神病院に隔離されていた少女モナ・リザ(チョン・ジョンソ)は、突如として他人を操る超能力を発揮し、施設から逃亡する。刺激と快楽に満ちたニューオーリンズの街で、シングルマザーのストリッパー、ボニー(ケイト・ハドソン)やストリートの男たちと関わりながら追跡を逃れようとする彼女だが、警察は執拗に彼女を追い詰める。監督・脚本は『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』で注目されたアナ・リリー・アミールポアー。
う~ん、正直、期待していたほどパッとした作品じゃなかった。まず、主人公が何者で、なぜ「モナ・リザ」という名前で、なぜ長期間精神病院に入れられていたのか、そしてなぜそんな超能力を持っているのかがまるで描かれず、最後まで謎のまま放置されているのが気になった。監督は意図的に謎のまま残したらしいが、そうしたスタイルが自分には合わなかった。そもそもそんな強力な能力があるなら、12年も病院に大人しく入院せずに、さっさと抜け出せばよかったのでは?と疑問に思えてしまう。
超能力の使い方も過度に暴力的で、痛々しさばかりが目立ち、本当にこれは必要?と思わされる。病院脱出後もアンダーグラウンドの人々との交流ばかり描かれ、どんよりとした暗い雰囲気が延々と続くのも重苦しく息苦しい。ラストも投げっ放しで、観終わって「結局なんだったの?」という虚しさが残ってしまった。雰囲気やビジュアルが高評価な作品らしいが、物語の掘り下げが足りない部分で評価できない作品だった。

