AppleTV+のSFドラマ『マーダーボット』がとても楽しかった件

マーダーボット (監督:ポール&クリス・ワイツ他 2025年アメリカ製作)

AppleTV+のコメディスリラーSF『マーダーボット』

Apple TV+で配信中のSFドラマ『マーダーボット』がとても楽しくて、全10話をわくわくしながら観終わりました。SFといっても様々なサブジャンルがありますが、このドラマは、まさにメディスリラーSFと呼ぶにふさわしいでしょう。サスペンスと、それに絡むコミカルな可笑しさが絶妙なんです。近年観たSF作品の中でも、群を抜いて秀逸な一作でした。

舞台となるのは、恒星間旅行が可能となった未来のとある未開惑星。主人公は、自らを「弊機」と呼ぶアンドロイドです。この惑星の探査ミッションに訪れた科学者チームを護衛するために配備されました。しかしこの「弊機」、人間と接することを嫌い、ひたすらTVドラマを見ていたいと願うちょっと変わったヤツ。実は、自らの制御モジュールを密かにハックしており、こっそりと自由を謳歌しているのです。隙あらば頭の中でSFドラマ『サンクチュアリ・ムーン』を再生しているのです!

そんなある日、科学者チームが惑星原生の巨大生物に襲われ、さらにこの惑星には知らされていない不可解な事実があることが判明します。その背後には、惑星探査を巡る巨大企業の陰謀が隠されているようなのです。「弊機」は職務として警護を全うしようとしますが、科学者チームが厄介な変わり者ばかりで内心うんざりしています。そして度重なる危機に、「弊機」は自分が自由な存在であること、さらには「マーダーボット」と呼ばれる自身の秘密が露呈する危険に直面します。

愛すべき「陰キャ」アンドロイド

原作はヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞の3冠に輝いた作家マーサ・ウェルズの小説「マーダーボット・ダイアリー」シリーズの中篇「システムの危殆」。この原作シリーズ、本当に傑作で、私も大変楽しんで読ませてもらいました!主演・制作総指揮はアレクサンダー・スカルスガルド。映画「アバウト・ア・ボーイ」のポール&クリス・ワイツ兄弟が監督・脚本・プロデュースを手がけ、スカルスガルドとともにデビッド・S・ゴイヤー(「ターミネーター ニュー・フェイト」「マン・オブ・スティール」)が制作総指揮を務めています。

何が楽しいってこのドラマ、主人公アンドロイドが「陰キャ」だという部分でしょう。人間たちに常にうんざりし、目を合わせることも厭わしく、「こいつら、うざい」とばかりに嫌悪感を抱き、いつもああだこうだと心の中でボヤき、事あるごとにTVドラマに逃避し、けれども本心は決して表しません。

しかし、何から何までネガティブという訳ではありません。AIとして効率的な最適解を知っているからこそ、感情やしがらみに縛られ、何をするにも遠回りな人間の行動や思考に難色を示すのです。でも、そこは決して言葉に出さず、自分を人間たちに合わせ、決して波風立たないようにしているわけですから、実は相当の気配りアンドロイドなんですよ。ただ、愚痴が多いだけなのです!

そんな中、本当の危機が訪れた時には、瞬時に冷徹な判断を下し、人間なら躊躇しそうな「忌まわしいこと」を即座に実行します。それが警備ユニットの本来の職務だからです。しかしその冷徹さに、今度は人間たちが戦き、「弊機」を警戒します。職務を全うしながら厭われるこのやりきれなさ!

深層に潜むテーマ性

しかしこれ、「人間/アンドロイド」というSF設定を離れるなら、人間同士で営まれる私たちの現実社会でも十分に起こり得ることではないでしょうか。この物語には、「個人的であること/社会的であること」の相克が暗喩として込められているように感じます。陰キャ」の「弊機」は、私たちの「個人性」を指し示しているのかもしれません。そしてそれをコメディタッチで描くからこそ、「弊機」に対する共感が生まれるのではないでしょうか。

そういったキャラクター設定の面白さ以上に、SF世界の描き方に非常に注力している部分も見どころです。未来世界の登場人物たちの社会背景、衣装、彼らの扱う洗練されたGUI、スペースシップや小道具といったものの優れたデザイン性、「企業リム」「プリザベーション連合」の社会的な対立など、どれもSF作品としての説得力に溢れています。「冷徹な企業」などは『エイリアン』のユタニ・カンパニーを彷彿とさせ、SFファンならば思わずニヤリとするでしょう。そういったSF世界で主人公アンドロイドが常にうんざりしながら完璧に職務を実行しようとする、その可笑しさといじましさこそが、『マーダーボット』の最大の魅力なのです。

シーズン2も製作決定したようです。

Apple TV+『マーダーボット』シーズン2へ更新! - 海外ドラマNAVI

原作とドラマの違いは以下のリンクで: