巨大宇宙SF傑作選 黄金の人工太陽/J・J・アダムズ (編集), 中原 尚哉他 (翻訳)
SFとファンタジーの基本はセンス・オブ・ワンダーだ。そして並はずれたセンス・オブ・ワンダーを味わえるのは、超人的なヒーローが宇宙の命運をかけて銀河のかなたで恐ろしい敵と戦う物語だ(序文より)――常識を超える宇宙航行生物、謎の巨大異星構造物、銀河をまるごと吹き飛ばす規模の爆弾。ジャック・キャンベルら充実の執筆陣による、SFならではの圧倒的スケールで繰り広げられる物語18編を集めた傑作選。
創元から様々なSFテーマを中心としたアンソロジーがポツポツと出版されていて、割と読んでいる。これまで読んだのは『この地獄の片隅に:パワードスーツSF傑作選』『不死身の戦艦: 銀河連邦SF傑作選』『スタートボタンを押してください:ゲームSF傑作選』といったところか。
そして今回読んだ『黄金の人工太陽』は「巨大宇宙SF傑作選」ということらしい。巨大物体はSFの華。巨大な宇宙で巨大なものが出現するSF、なにやらヴォークト的ではないか。とはいえ、あとがきを読むと実際は「最新スペースオペラ傑作選」であるという。どっちなんだ。面白ければどっちでもいいが。
そんなわけで読み進めてみたが、これまでの創元SF傑作選同様、「玉石混交」であることは否めない。特に最初の数編はなにやら設定だけはデカくぶち上げているがアイディアらしいアイディアもこれといった物語らしさもなく、いいところコミックタッチのヤングアダルトSFといった風情でがっかりさせられる。とはいえこういった雰囲気が好きな方もいらっしゃるだろうから一概に否定できないかもしれない。
しかしその中でも「ギラリと光る一篇」はいくつか存在し、それが創元SF傑作選を読む醍醐味でもある。カール・シュレイダー『黄金の人工太陽』は遠未来、「ラプラスの魔」的に宇宙の終焉まで予見された世界の絶望と希望を描くが、その壮大なスケール感がいい。カメロン・ハーレイ『迷宮航路』は500隻の恒星間移民船が突如超次元的な巨大物質に足止めを食らうという物語だが、もうこの設定だけで気が遠くなるよな。その後のグロテスクな展開もグッド。
一番気に入ったのはダン・アブネット『霜の巨人』。銀河辺境に存在する惑星型超巨大データセンターに、あるデータを盗み出すためにそのデータセンターの設計者が特攻をかける、というお話。主人公は幾機もの精神没入型アンドロイドを使い捨てながらデータセンターの凶悪なセキュリティと戦闘を繰り広げ中心部を目指すが、これってよく考えるとコンピューターハッキングをフィジカルに描いてみた、という作品なんだよね。よくあるSFでは電脳世界へのダイブを描くところを、この作品ではアンドロイド筐体でデータセンター惑星に肉弾攻撃をしかける、という形になっている。この辺の発想の転換が優れた作品だった。映像化しても面白いかも。