怒らせたヤツはヘタレCIA職員だったッ!?/映画『アマチュア』

マチュア (監督:ジェームズ・ホーズ 2025年アメリカ映画)

愛する妻をテロ犯に殺され復讐を誓ったCIA職員のチャーリーだったが、CIAはCIAでも彼は情報捜査官、殺しのスキルなど全く持たない”アマチュア”だった……という映画『アマチュア』である。主人公チャーリーに『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック、訓練教官ヘンダーソン役に『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーン。監督はドラマ『窓際のスパイ』、映画『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』のジェームズ・ホーズ。原作はスパイ小説作家ロバート・リテルの同名小説。

【STORY】内気な性格で愛妻家のチャーリー・ヘラーは、CIA本部でサイバー捜査官として働いているが、暗殺の経験もないデスクワーカーだ。最愛の妻とともに平穏な日々を過ごしていたが、ある日、無差別テロ事件で妻を失ったことで、彼の人生は様変わりする。テロリストへの復讐を決意したチャーリーは、特殊任務の訓練を受けるが、教官であるヘンダーソンに「お前に人は殺せない」と諭されてしまう。組織の協力も得られない中、チャーリーは彼ならではの方法でテロリストたちを追い詰めていくが、事件の裏には驚くべき陰謀が潜んでいた。

アマチュア : 作品情報・キャスト・あらすじ - 映画.com

『96時間』や『イコライザー』、『ジョン・ウィック』や『ビーキーパー』など、「怒らせたヤツは殺しのプロだった!」といった映画が花盛りである。オレもこのジャンルの映画が相当に好きなのだが、あまりに無双過ぎて飽きてしまう、という方もちらほらおられるようだ。そんな昨今の流行りの中で変化球として登場したのがこの作品だ。この『アマチュア』、「怒らせたヤツはCIA職員だった!」のではあるが、実のところ主人公チャーリーは一日中端末に張り付いているだけの情報分析職員であり、銃もまともに撃てないヘタレ野郎だったのである。そんなチャーリーがどのように復讐を遂行するのか?がこの映画の見どころの一つとなるのだ。

とはいえ、リベンジムービーやら無双映画やらにはやはり食傷している方も多いかと思う。しかしこの『アマチュア』は、単なるリベンジムービーで終わっていない部分に真の面白さがあるのだ。主人公チャーリーは職務中にある極秘ファイルを発見するが、それはCIA上層部が隠ぺいしたある汚れた作戦の内容だったのである。それによりチャーリーは自分の務めるCIAから命を狙われることになる。「追う者と追われ者」を描いた作品は多々あるが、この『アマチュア』の主人公チャーリーは「追う者であると同時に追われる者」となってしまうのだ。これにより映画はチャーリーがテロ犯に近づけば近づくほど、CIAに発見されるリスクが高まってしまうという構造を成すことになり、緊張感がさらに倍加される効果が出ているのだ。

こういった点で、映画は単なるリベンジムービーに止まらない、熾烈な諜報戦の応酬が描かれるユニークなスパイスリラーとして完成している。それはあたかも「アクション少なめのジェイソンボーン」といった様相を呈し、誰一人信用できないパラノイアックな恐怖が全編を覆う作品となっているのだ。構成は恐ろしくしっかりがっちりと作られており、妻を失った悲しみもウェットさに流れることなく丁寧に描かれ、様々な部分で過不足ない目くばせが成された快作だと言っていいだろう。それを後押ししているのは主演であるラミ・マレックのマッチョさを否定した佇まいと、何を考えているのか分からないギョロ目のキャラクターに追う部分が大きいだろう。