荒唐無稽ぶりを力技で押し通した爽快痛快スパイ・アクション映画『355』

355 (監督 サイモン・キンバーグ 2022年イギリス映画)

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5人の女性エージェントが画面狭しと大暴れを繰り広げるスパイ・アクション映画『355』を観てきました。いやー楽しかったな!映画を褒めるとき「こういうのでいいんだよ!」って言葉がありますが、まさに王道の「こういうのでいいんだよ」映画!細かい事をあれこれ説明する気も起きないほどサクッとザックリ、スカッと爽やか爽快痛快アクション・ムービーでした。

なにしろ粗筋は「いつもは敵同士である世界各国の女性諜報部員が一致協力して極秘兵器の回収に挑む」、これだけ!だから面白いからグダグダ言わず観に行こう!おわり!

 

……という具合に済ませたいところですがそれではちょっとあんまりなのでもうちょっと説明いたしましょう。

登場する5人の女性エージェントは次の通り。

メイソン・“メイス”・ブラウン (ジェシカ・チャステイン):アメリカCIAエージェント

ハディージャルピタ・ニョンゴ):元イギリスMI6のコンピュータ専門家

マリー(ダイアン・クルーガー):ドイツBNDエージェント

グラシエラ(ペネロペ・クルス):コロンビアDNIの心理分析官

リン・ミ・シェン(ファン・ビンビン):中国MSSエージェント

これら5人のエージェントは本来ライバル同士であったり敵同士だったりするわけです。しかし世界を破滅に陥れるコンピューター兵器奪還のため、次第に協力し合うようになり、さらに本国からの協力も途絶えたりなんかして、最終的に強力な結束力でもって敵を追い詰めてゆくんですね!

とはいえ、そもそもこの設定、普通に考えたら有り得なさ過ぎです。確かに、例えば米英諜報機関のスパイが共闘するという映画は『コードネーム U.N.C.L.E.』『キングスマン:ゴールデンサークル』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』など枚挙に暇がありません。

しかしなんと5カ国って!さらに女性だけって!盛り過ぎだろ!一人は社会主義国家の人間だし!やりゃあいいってもんじゃないだろ!だけどそこがイイ!

だいたい物語の鍵となるアイテム、「あらゆるセキュリティをくぐり抜け、世界中のインフラや金融システムなどを攻撃可能なデジタル・デバイス」なるものの存在がスパイアクション物としてはあまりにアリガチでありふれてて大雑把で「またそんなヤツか」と思わせますが、だけどそこがイイ!

冒頭からそのデジタル・デバイスを巡り米独のエージェントが人通りの激しい街中で大っぴらに銃を振り回しド派手に銃撃戦をおっぱじめ、いやいやこれは普通に国際問題に発展だろ!?と思わせますが、だけどそこがイイ!

恋人でもある同僚を殺害された主人公スパイ・メイスが「復讐したいから奪還作戦に参加するわ!」と吠え立てますが、その上司が「復讐かー、まーいーんじゃない?」とか言って作戦参加を許すとかって、普通のスパイドラマじゃありえんだろ!?と思わされますが、だけどそこがイイ!

でも各国エージェントが身を隠すセイフ・ハウスが毎回ことごと敵に発見され容易く強襲を受けちゃうのは、ちょっとそれはないんじゃない!?……だけどそこがイイ!(いいのかよ!?)

こういった具合にあれもこれも荒唐無稽で、もしホンモノの諜報員のヒトが観たら始めから終わりまで全部「有り得ない!」と絶叫しそうですが、しかしかえってそんなホンモノの諜報員のヒトこそが「でも面白い!」って思っちゃ映画ではないでしょうか。現実ではありえない無茶(苦茶)な設定を力技で押し通し、いわゆるファンタジーとして堂々と描き切っちゃうわけですから。最近Twitterでも「フィクションと現実の違い」が論議になっちゃったりしたようですが、「フィクションという名の嘘」をここまでシラッと押し通しやり切っちゃった部分で、思い切りのいい作品だな!と思ったわけですよ。

もちろん5人のエージェントが全員女性である、といったただそれだけの部分でも面白が倍加しています。確かに、女性だけのエージェント集団って『チャーリーズ・エンジェル』を筆頭にこれまでも存在していましたが、どこかで「オシャレ」だとか「セクシー」だとか女性に対する古臭い定冠詞が付けられていたように思います。しかし『355』の5人はいずれもタフでダーティーでガチなスペシャリストであり、実際この5人が男性でも通用する物語になっているんです。ただしことコミニュケーション能力や共感能力において男性よりも抜きんでている、ということはできるんじゃないでしょうか。

そして登場する5人のエージェントがそれぞれに個性的であり能力が差別化されていて、そんな部分でも楽しいですね。まず主人公メイスがリーダー格で、ハディージャはハッキングの天才、マリーはタフなファイター、グラシエラは神経の細やかな心理分析官で、リンは謎めいた女ながら軽やかに格闘技を操ります。しかしこれってなにかを思い出させますね。例えるならメイスはアカレンジャーハディージャアオレンジャー、マリーはキレンジャー、グラシエラはモモレンジャー、そしてリンはミドレンジャー……

ってことはオイ、『355』はスパイ映画版『ゴレンジャー』だったのかッ!?(違

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