ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~(シーズン1)(製作総指揮:ジョン・ローガン、サム・メンデス 2014年アメリカ作品)
エヴァ・グリーン、ティモシー・ダルトン、ジョシュ・ハートネットが主演の19世紀ロンドンを舞台にしたゴシック・ホラー・ドラマと聞くとちょっと身を乗り出さないだろうか。おまけに製作総指揮が『007 スカイフォール』『007 スペクター』の監督サム・メンデスと脚本のジョン・ローガン、原案もジョン・ローガンが兼ねた作品となるとこれはもう興味津々だ。
ドラマのタイトルは『ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~』、2014年から2016年まで3シーズン配信されていたのらしいが、実はこれまで全く存在を知らず、最近シーズン1を視聴してその面白さに唸ってしまった。配信当時は話題になっていたんだろうか?しかも現在どこのサブスクサービスでも配信されておらず、DVDをレンタルしての視聴となった(ちなみにDVD画質はそれほど悪くなかった)。
【STORY】19世紀ロンドン。吸血集団により娘を誘拐された冒険家のマルコム卿(ティモシー・ダルトン)は、娘を救出するために強力な仲間を集める必要があった。マルコム卿のもとに集ったのは霊的感応力を持つ女ヴァネッサ(エヴァ・グリーン)、アメリカ人ガンマンのイーサン(ジョシュ・ハートネット)、解剖学の権威フランケンシュタイン博士(ハリー・トレッダウェイ)。さらにドリアン・グレイ、ヴァン・ヘルシングがそこに絡み、ロンドンの深き闇を悪鬼を求めてさまようのだ。
19世紀ロンドンに吸血鬼とフランケンシュタインの怪物、切り裂きジャックにドリアン・グレイ、ヴァン・ヘルシングまで登場するというのだから大盤振舞だが、後半ではそこに「エクソシスト」や「オペラ座の怪人」的要素が入り込み、フランケンシュタインの花嫁の登場まで匂わせる。ここまで出てくるならXXXX男は?と思う方もいるかもしれないがそれはお楽しみに。
ここまで大盤振舞だと逆に2004年に公開されたホラーアクション映画『ヴァン・ヘルシング』みたいな大味なモンスタームービーなんじゃないのか?と危惧されるかもしれないがさにあらず。製作にサム・メンデスとジョン・ローガンが絡んでいるだけあって、しっかりとしたシナリオと重厚な撮影、頽廃に満ちた雰囲気とおぞましいホラー演出の加味された、実に完成度の高いドラマとなっているのだ。なによりエヴァ・グリーン、ティモシー・ダルトン、ジョシュ・ハートネットの3人が同じ画面で顔を突き合わせ、緊張感溢れる演技を見せるのだからこれが面白くないわけがない。
しかも主演の3人を始めとする登場人物たち誰もが呪われた過去と隠された秘密を抱え、おまけに大なり小なりゲスい性格をしており、ただでさえホラーな物語を一層ドロドロなものにしている。特にまるまる1話を費やして物語られるヴァネッサの秘められた過去は、暗黒鬱展開文芸ドラマの如き嫌ったらしさでウットリとさせられた。むしろこの物語は、モンスターホラーというよりはこれら登場人物たちの悲劇と呪いに彩られた人生を主軸として描いたものだと言っても過言ではない。
そしてこのドラマ、なにしろエヴァ・グリーンが凄い。あの暗い目つきが堪らないのだ。前々から映画でエヴァ・グリーンが演じる登場人物は、どれも破滅的な性格を抱えたダークキャラクターが多いように感じていたが、今作でも妖艶な美しさの影に死と狂気の匂いをまとった暗黒鬱キャラとして登場し、黒光りのする存在感で他を圧倒している。また、吸血鬼にしろフランケンシュタインの怪物にしろ、登場するモンスター・怪人物たちには新解釈が加えられ、決してありきたりのモンスターホラーにはしていない。
タイトルとなる「Penny dreadful」とは怪異や殺人を売り物とした三文小説のことを指し、いわばホラー版パルプ・フィクションということもできるが、三文小説とは言いながら全体において格調高く知的な部分も散見する作品だと感じた。それは時折垣間見せる深みのある台詞の妙味もさることながら、所々で引用される数々の古典文学の一節に高いインテリジェンスを感じさせるのだ。そういった部分も含め凡百のホラードラマを凌駕する素晴らしい作品だった。ドラマはシーズン3まであるらしくシーズン2も観る気満々だが、シーズン3が日本語ソフト化も配信もされていないのが残念で堪らない。