フランケンわんちゃんの大活躍!?〜映画『フランケンウィニー』

■フランケンウィニー (監督:ティム・バートン 2012年アメリカ映画)


この『フランケンウィニー』はティム・バートン1984年に製作した同タイトルの短編ストップ・モーション・アニメを長編リメイクした作品です。お話の中心となるのは郊外の町に住む少年ヴィクターと愛犬スパーキー。ヴィクターはスパーキー主演の特撮映画を撮るほどスパーキーが大好きでしたが、ある日、自動車事故でスパーキーを亡くしてしまいます。悲しみに暮れるヴィクターはしかし、科学の実験で電気の作用により死んだカエルの筋肉が動く様子を見て、あることを思いつくのです。そして雷鳴轟く夜、ヴィクターは動物霊園からスパーキーの亡骸を掘り起し、屋根裏の自分の部屋に横たえると、稲妻の力がスパーキーの肉体に送り込まれるのを待ちました。そう、ヴィクターは、スパーキーを生き返らそうとしていたのでした…。
粗筋からもわかるように、この物語はメアリ・シェリーの「フランケンシュタインの怪物」をモチーフに、継ぎ接ぎの怪物を死んだ愛犬に置き換えて描かれるお話です。ホラー調のこの物語を、ティム・バートン・プロデュースの『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や監督作の『ティム・バートンのコープスブライド』のような、キュートで不気味なストップ・モーション・アニメとして完成させたのが本作なんですね。そしてこの作品、オリジナルと同じように、かつての古典ホラーに敬意を表したモノクロで撮影されていて、しかもなぜか3Dという変わった作りになっているんですね。オリジナルとこのリメイクの違うところは、当然ながら29分の短編を87分の長編にしたことによる登場人物の多さと彼らの演じるドラマでありますが、歴然と変化したのはそのテーマの在り方なんですね。オリジナル短編はそのモチーフとなった「フランケンシュタインの怪物」と同様の、「得てはならなかった生命」の悲しみ、そしてそういった「ありえない生を得た怪物性」への人々の恐怖とそれを葬り去ろうとする暴力が描かれ、それは初期ティム・バートン作品の根幹ともなるテーマであった「フリークスの持つ孤独と悲哀、そして悲劇の物語」へと繋がってゆくのです。監督第2作であったこのオリジナル作品は既にティム・バートンの本質とも言える物語を紡いでいたのですね。
しかしこのリメイクではそういった初期バートン風のテーマは希薄です。物語は中盤から稲妻の力で死んだ動物を生き返らすことができるのを知ったヴィクターの級友たちが思い思いに彼らの死んだペットを生き返らせ、町が大パニックになる、といったお話へと変転してゆくんですね。ただ、初期ティム・バートンのテーマ性、言い換えれば駆け出しの映画監督であった頃のティム・バートンルサンチマンが、その後彼が売れっ子の映画監督となり、社会的的名声を得ることによって、すっかり雲散霧消してしまっているというのは、彼の最近の映画を観れば明らかな事でしょう。結局、現在のバートンの映画テーマになっているのは、そのSFホラー映画のマニアックな趣味性と、それらの映画が持つフリークス的な、病んだようなビジュアル感覚をどんどん洗練化してゆくという行為にあるのでしょう。逆に、趣味性とビジュアル主体の空虚さとか、かつてのバートン映画のセルフパロディとも焼き直しとも取れる様な作品(この『フランケンウィニー』だってリメイクという名の焼き直しです)を小手先だけで撮っている、という批判も十分あるかとは思います。近作の『アリス・イン・ワンダーランド』や『ダーク・シャドウ』もまさにそういった作品だった、と言えなくもないのですが、自分は今のこういったバートン映画も結構好きだったりします。
そのバートンの好きな部分、というのは、いつまでも自分の子供の頃から好きだったSFやホラーにずっと浸っていたい、という、ある意味オタク器質的な部分にあります。まあバートンも商売ですから、そういう自分をウリにしてはいるのでしょうが、逆にこういったSFホラー趣味、フリークス的なものに対する偏愛があるから商売が成り立っているともいえるんですよね。このリメイク版『フランケンウィニー』にしても、オリジナルにはない登場人物たちのキャラが、「ドラキュラ」や「フランケンシュタイン」などの古典ホラーを思わせる造形で楽しかったりするんですよね。猫背というよりもせ〇しにしか見えないエドガーなんて、ありゃあカジモドとかイゴールなんてぇ名前でもおかしくないけど、いまどきよくビジュアル化できたよなあ。その後現れるモンスターの数々も楽しくって、特に日本を代表するあのモンスターが出てきた日にゃあ、「いやあ、やりたい放題じゃないですかバートンさん」と呆気にとられたぐらいでしたね。
そしてやっぱり、主人公であるスパーキーが可愛らしいんですね。もともと犬好きであったというバートンが造形しただけあって、仕草や動きがとても犬らしいなつっこさで、継ぎ接ぎの不気味な姿なのに愛らしいんですよ。というわけでこの『フランケンウィーニー』、ティム・バートンの手掛けたストップ・モーション・アニメの中でも、あまりガチャガチャとしておらず、白黒の陰影がとてもしっとりした雰囲気を醸し出していて、さらにお話が分かりやすく親しみやすい上にとても気軽に楽しめるという点で、実はこれまでで一番楽しめたバートン・アニメでしたね。やっぱり自分は、ティム・バートンって好きな監督です。

フランケンウィニー オリジナル・サウンドトラック

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フランケンウィニー ビジュアルブック (ShoPro Books)

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フランケンウィニー ビーンドール スパーキー

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