旧『バットマン』4部作を観返していた

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久しぶりに旧『バットマン』4部作を観返してみた

突然『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』を観たくなったのである。理由はよく覚えていないが、全身キンキラキンにシルバーなシュワルツェネッガーを拝みたくなったからなのかもしれない。 じゃあついでに旧『バットマン』4部作を一気に観返してみようじゃないか!となし崩しに思い付き、衝動に身を任せたままBlu-rayセットをアマゾヌでポチヌしてしまった罪深いオレなのであった。衝動買いばかりしているから貯金がなかなか溜まらない。これは老後に向けて由々しきことである。まあしかし買っちまったもんはしょうがない!ということで旧『バットマン』4部作を1作目から順繰りに観始めたオレなのであった。 

バットマン (監督:ティム・バートン 1989年アメリカ映画)
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  • 発売日: 2016/02/24
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 当時、バットマン映画化!と知った時には大いに盛り上がった。バットマンに興味があったというよりは、サントラを手掛けていたのが当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったプリンスだったからである。プリンス・ファンだったオレは既に発売済みのサントラを朝に夕に聴きながら映画の公開を楽しみにしていた。また、監督であるティム・バートンはこの頃まだ『ビートル・ジュース』をヒットさせたばかりだったが、『ビートル・ジュース』の摩訶不思議な世界が結構気に入っていたので、作品自体にも期待はあった。しかし実際劇場で観たオレの感想は「???」だった。いろんな部分で中途半端に感じたのだ。

バットマン役のマイケル・キートンが見事にでくの坊で、ジャック・ニコルソン演じるジョーカーは奇矯すぎ、ヒロイン役キム・ベイシンガーは何しに出てきたのかよく分からなかった。物語それ自体も、ティム・バートンの持ち味が上手く活かせておらず、シリアスさとブラックなユーモアは噛み合ってなく、物語運びの混乱ばかり伝わってきた。プリンスのサントラは気持ちほどしか使われておらず、さらに雰囲気に全く合っていなかった。後からティム・バートンと製作側の意見が噛み合っていなかったという事を知り、それでバートンは伸び伸びと作れなかったのかと思った。

さて今観返してみると、実は意外とバートンは健闘していたのではないか、と思える映画だった。この辺オレはあまり詳しくなくて断言できないんだが、バートンはアニメ版のバットマンの雰囲気を出そうとしていたのではないか。そう思うと全体の演出や雰囲気が合致するのだ。ただし当時目を引いたセットは張りぼて感満載で、美術それ自体は古臭く感じてしまった。逆に、大昔観た時に辟易したジャック・ニコルソンの演技が実に面白く、さすが大俳優だなと思わせた。キム・ベイシンガーも、こうして今いい年のオッサンになってみるとその魅力が大いに伝わってきて、いい女優だったのだなあと改めて認識した。マイケル・キートンは今観てもでくの坊だった。ロマンス展開はやはり必要に感じなかった。ロマンス展開期待してバットマン観てるわけじゃないし。

バットマン リターンズ (監督:ティム・バートン 1992年アメリカ映画)
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どうにも食い足りなかった1作目と比べると、この『リターンズ』はバートン監督の得意なテーマとする「フリークスの悲しみ」が十分に描かれ、さらに美術も”バートンらしさ”が花開く傑作として完成していたように思う。1作目の興行的成功がバートンに自由な制作態度を許したからなのだろう。バートン作品としても評価が高かったのではないか。

だがこうして今観直してみると、バートンのダークファンタジー風味がどうにももっさりして感じられ、「ダークヒーローのアクション活劇」としての爽快感に乏しく、美術や造形は優れていたものの、アクションとしては見るものがないように思えた。マイケル・キートンは相変わらずでくの坊で、首の回らない作りのバットマンスーツはそれをさらに誇張して見せていた。悪徳市長役クリストファー・ウォーケンはそこそこに役をこなしていたが、ペンギン役ダニー・デヴィートは大いになり切ってはいたものの、やはり1作目のジョーカー並にトゥーマッチなキャラで、観ていて少々胸焼けした事は否めない。

しかし驚いたのはキャットウーマンを演じたミシェル・ファイファーだ。バットマンを含めモンスターだらけのこの作品で、正気と狂気の狭間で揺れ動く彼女の悲しみは、この物語で唯一人間的要素を見せつけていたのだ。キャットウーマンという奇矯なキャラも楽しみながら堂々と演じていたように見えた。ミシェル・ファイファー、大昔観た時にはまるで気が付かなかったが、こうして観ると彼女もまた優れた女優だったのだ。 

バットマン フォーエヴァー (監督:ジョエル・シュマッカー 1995年アメリカ映画)

これまで監督だったティム・バートンが製作に回り、新たにジョエル・シュマッカーを監督に迎えて始動した旧4部作第3弾である。また、バットマン役がマイケル・キートンからヴァル・キルマーに変更されている。劇場で観た時はそれなりに楽しみつつ、実のところまるで記憶に残らなかった作品ではあったが 、今回観直してみても、やはりせいぜい凡作といっていい作品ではある。しかしティム・バートンの暗く重苦しい世界観を払拭し、もっと間口の広い娯楽昨に仕立てようとしたのであろう、見た目の騒々しいキャンプな作品にしようとしたシュマッカーの意図(というか製作者側の意図なのだろうが)は分からないでもない。2作を通じ延々バートン節を披露させられるのも少々鬱陶しく思えてきたからだ。

しかし凡作なりにこの作品、配役が豪華だ。ヒロインにニコール・キッドマントゥーフェイストミー・リー・ジョーンズリドラージム・キャリー、さらに悪の手下としてドリュー・バリモアまで出演しているではないか。特にニコール・キッドマンの美しさは旧4部作ヒロインの中でも群を抜いていた。トミー・リー・ジョーンズは単なる怪物演技で、ほとんど漫画のようなノリだったが、問題なのはジム・キャリーで、役を演じているというよりも、単にいつもの鬱陶しいジム・キャリーなのである。こいつさえいなければまだなんとか観られる映画だったのではないか。ヴァル・キルマーマイケル・キートンよりはましであったと言っておこう。 

バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲(監督:ジョエル・シュマッカー 1997年アメリカ映画) 

旧4部作最後の作品は、あまりの不評のためにこの後のバットマン映画製作が一時頓挫してしまったほどの失敗作として知られている。しかし実は、旧4部作を観直してみて一番楽しんで観られた作品だった。まず美術や特撮がとりあえず一番新しく、見られるものになっていること、シリーズ4作目・シュマッカー2作目という事で余裕や遊びのある演出であったこと、ロビンやバットガールが参戦し見た目が賑やかで楽しげであること、そして今作のヴィランMr.フリーズを演じるアーノルド・シュワルツェネッガーとポイズン・アイビー役のユマ・サーマンが思いのほか素晴らしく、味のある演技を見せていたことだ。

Mr.フリーズのその暴力性とは裏腹の深い悲しみの在り方は存在感に厚みをもたらしており、旧4部作で一番好きなヴィランかもしれない。まあ大仰で馬鹿馬鹿しいルックスのキャラだが、この「大仰な馬鹿馬鹿しさ」こそが今作のコンセプトとも言えたのではないか。ポイズン・アイビー役のユマ・サーマンはナードな素の顔と妖艶なヴィランのキャラクター両方を演じ、『パルプ・フィクション』ですっかりユマ・サーマンに熱を上げていた当時のオレにとっても眼福であった。そしてこのMr.フリーズとポイズン・アイビー、これまでのバットマンヴィランが実の所「変な衣装を着た頭のおかしい犯罪者」でしかなかった部分を、それぞれにユニークな特殊能力を持ち、バットマンを究極の危機に陥れる強敵として登場している部分は着目すべき点だ。

バットマンジョージ・クルーニーは線が細く小柄ではあったが、マッチョさを否定した甘いマスクの容貌は、世間で言われるほど悪くなかったはずだ。ロビンもバットガールも、若々しく溌溂としたキャラで好印象だった。それと、あのベインが登場してバカマッチョを演じる部分もまた楽しい。3作目から継承するギラギラとしたキャンプな映像は一層怪しく煌めき、それは監督シュマッカーの深層心理の発露でもあったのではないか。とは言え、旧4部作で最も遊びと余裕の感じられた本作は、バートンが監督し成功させた1作目2作目があったからこそだということも忘れてはいけないだろう。

確かに今観るとTVドラマの1作程度にしか感じないチープさはあるが、しかし非常に充実したキャラクターを提示した本作の、その続きが製作されたなったのは少々惜しかった気もする。なにより、明るさと希望に満ちたラストが素晴らしい作品だった。そして『バットマン』シリーズはその後クリストファー・ノーランによる伝説的な新3部作が始動するするまで、8年間の沈黙へと突入するのだ。