おふくろの味?

おふくろの味?

以前読んだヤマザキマリさんの『貧乏ピッツァ』で「おふくろの味」について書かれていたのだが、その時「オレにとって”おふくろの味”というのは何にあたるのだろう?」と思ったのである。

「おふくろの味」というと幼少時に体験した家庭料理、それも母親が作ってくれた思い出深い料理ということになるのだろうが、もちろんそれは人によって千差万別だろう。例えばWebサイト「macaroni」で挙げられていた「おふくろの味ランキング」では以下のようになる。

1位:卵焼き

2位:唐揚げ

3位:煮物

4位:肉じゃが

5位:カレー

令和版「おふくろの味」人気ランキングTOP20!懐かしいお母さんの味といえば? - macaroni

順位こそ変動しそうだが、一般的には確かにこんなものだろうと思う。

翻って自分は一体何だろう?とあれこれ考えてみたがあまり思い浮かばない。卵焼きや肉じゃがには特に思い入れはないし、カレーも唐揚げも、嫌いではないが別に「おふくろの味」という気がしない。あえて言うなら「煮物」だが、これはあまりに大雑把なくくりで、いったい何の「煮物」なの?と思ってしまう。

しかし「おふくろの味」で「煮物」というと一品思い浮かんだ。それは「カジカ汁」と呼ばれるものである。多分オレが以前住んでいた北海道独特の煮物料理だろうと思う。「カジカ汁」というぐらいだから「カジカを煮込んだ汁」であることは確かだが、では「カジカ」とは何か?という所から話が始まってしまう。

カジカ汁

Wikipediaを参考にするなら、「カジカ」とは:

カジカは、スズキ目カジカ科に属する魚。日本の固有種で、北海道南部以南の日本各地に分布する。地方によっては、ハゼ科の魚とともにゴリ、ドンコと呼ばれることもある。体色は淡褐色から暗褐色まで、地域変異に富んでいる。

カジカ (魚) - Wikipedia

ということになる。そしてそれはこんな魚である。本州の方にはあまり馴染みのない魚ではないだろうかと思う。

この「カジカ」をアラごとブツ切りにし、大根、人参、じゃがいも、長ネギといった野菜と共に塩または味噌で煮込んだものが「カジカ汁」ということになる。レシピというほどのものではないが、以下にリンクを一つ貼っておく。

オレの家では確か味付けが塩だったような気がするが、これはちょっとよく覚えていない。カジカは白身魚だが、橙色の大きな肝が特徴的だ。トップに挙げている「カジカ汁」の写真にある橙色の塊は実はこの肝なのだ。オレの実家では冬になるといつもこのカジカ汁を作っていたように思う。それは多分、漁港の町だった実家では、冬場のカジカは安価で大量に手に入る魚だったからだろうと思う。

とはいえ「おふくろの味」として挙げておいてなんだが、この「カジカ汁」が特に好物だったというわけではない。だいたい子供は魚の煮込み汁なんぞというものをそんなに好きになるものではないだろう。冬になるととりあえず何度も出されたから記憶に残っていて、さらに東京に来てからは一度もお目にかかったことの無い、もう何十年も食べたことの無い料理というとこれなのだ。これこそ「幼少時に(のみ)体験した家庭料理」としての「おふくろの味」ではないだろうか。

タラのフライ

「カジカ汁」だけだとなんとも地味なのでもうひとつ挙げておこう。もうひとつの「おふくの味」、それは「タラのフライ」である。

これは最初に挙げた「おふくろの味ランキング」における「唐揚げ」に近いかもしれないが、「唐揚げ」は基本的に「鶏の唐揚げ」を指すものであるのに対し、オレの場合は「タラのフライ」、つまりここでも魚なのである。

なにしろオレの実家は北海道の割と大きな漁港の一つだったので、食材としての魚は有り余るほどに豊富で、豊富で安価過ぎたからこそオレは子供のころ魚ばかり食わされていた。羨ましく思われる方もいらっしゃるかもしれないが、子供としては、魚ばかりでは、やはり飽きる。美味くて好きな魚もあったが、これが大漁ともなるとほぼ毎日食わされるので、これもやはり、飽きる。

とはいえこの「タラのフライ」に関しては、大好物だったことを白状しておこう。煮たり焼いたりではなく、フライである、という部分に子供心が躍ったのである。油っ気が子供の食欲を刺激するのである。そしてこれが大量に出される。大漁だから大量なのだ。どのくらい大量かと言うと大皿一つにフライが山盛りになって出されるのである。他におかずなんぞない。大皿にそびえる「タワー・オブ・タラフライ」だけがその日のおかずなのだ。それを好きなだけ小皿に取って、中濃ソースをダバダバとぶっかけてかぶりつき、その後ご飯をワシワシとかっ込むのである。

なにしろ毎回あまりに大量に揚げられるものだから残ってしまい、次の日の朝飯までタラのフライだったこともあった。しかしこの時は食べ方を変えるのである。中濃ソースをダバダバかけるのまでは一緒だ。だが今度はそのソースダバダバフライを食パンに挟んで食すのである。そう、タラのフライサンドが一丁出来上がりという訳だ。

タラのフライはその後大人になってから、フィッシュアンドチップスという形で酒場で再会した。今でこそタラのフライが出されるとビネガーをかけたりタルタルソースをかけたりと、なんだかこじゃれた食い方をするオレではあるが、心の奥底では「中濃ソース出せやコラアア!」と小声で言っていたりするのである。

それにしてもこの「おふくろの味」に関しては他にもありそうなので、覚えていたらまたやるかもしれない。という訳で今回はおしまい。