ジョニー・トー映画を観まくった!(後編)

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さて前編ではノワール/アクション系を中心に書いたが、この後編ではワイ・カーファイ共同監督作を中心にあれこれ紹介してみる。

ワイ・カーファイとの共同監督作『マッスルモンク (2003)にはなにしろ驚かされた。ムキムキの男性ストリッパーは実は人の「カルマ」を見ることの出来る元僧侶だった、という設定だけで頭がクラクラしそうだが、アクションと笑いをマリアージュさせた軽快なテンポの作品で、「ジョニー・トー、コメディもイケるのか!?」と思わせた。しかしそれよりもクライマックスの韓国ノワールすら凌駕する凄惨な展開に「ここまでやるのか!?」と頭が真っ白になった。

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とはいえ『マッスル・モンク』のコメディ展開部分は実際は共同監督ワイ・カーファイのセンスのように思う。寡黙なジョニー・トー演出に足りない饒舌さをワイ・カーファイが補っていたのではないか。二人の共同監督作は結構多く、前回紹介した『MAD探偵』もそうだったが、同じ共同監督作『ヒーロー・ネバー・ダイ』(1998)がまた”トンデモ展開”を迎える作品だった。対立する組織の殺し屋同士の確執を描いた作品だが、後半から「両足を失い”いざり車”で復讐を誓う男」という根本敬特殊漫画の如き展開を見せるのだ。この作品も前半の躁的な描写はワイ・カーファイのものなのだろうと感じた。

トー/カーファイ共同監督のよるクライムアクション『フルタイム・キラー  (2001)は香港俳優・アンディ・ラウと日本人俳優・反町隆史が主演を務める作品だ。対立する二人の殺し屋とその狭間に揺れる女の恋を描くが、アンディ・ラウ演じる殺し屋の素っ頓狂さはまさにカーファイのもの、そして熾烈な銃撃戦はトーのものなのだろう。殺し屋を巡る一人の女といった物語はエキセントリックだが、基本的に「男同士の壮絶なじゃれ合い」を描いたものなのだと思う。ジョニー・トー映画でよく言われる「男臭さ」とは、実は男たちの濃密極まりないホモソーシャルな関係の発露ではないのか。

トー/カーファイ共同監督作『アンディ・ラウの 麻雀大将』 (2002)はギャンブルコメディとなるが、「凄腕のギャンブラー」というより「単なるツキ」でありそれが「カノジョのもたらした運」という謎設定が例によってトンデモな怪作だった。そもそもトー/カーファイ共同監督作って、怪作か怪作の一歩手前の作品が多いじゃないか!?

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しかし共同監督作で最も心に残ったのはラブコメ作品『Needing You』 (2000)だ。ヤヴァい、これはひょっとしてオレが今まで観た最高のラブコメかもしれない。ロマンチックさとは真逆なドライさでガンガン笑わせながら、最後にきっちり「Love」で〆るハードボイルドなラブコメだったのだ。ラブロマンス作品にこういったテイストを持ち込めるセンスは稀有なのではないか。主演のアンディ・ラウとサミー・チェンも良かったが、吹き替えの声優もまた良くて、誰だろうと調べたらヒロイン役が林原めぐみ様!!オレのジョニー・トー映画ベスト作品の一つとなった。

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「怪作」といえば『柔道龍虎房』(2004)もオレは「堂々たる怪作」と言いたい。辺り構わず柔道対戦を申し込む男が主要人物、という段階で訳が分からないのだが、それに酔いどれダメ男とスターになりたいのに誰にも相手にされない女が絡む。そして物語それ自体は「姿三四郎」のオマージュなのだという。劇中でも「三四郎」のテーマが何度も歌われカオス度がいやましてゆく。でもこれも基本は男同士の息苦しいばかりの濃密な「愛」の物語なんじゃないかとオレには思えたな。

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奪命金 (2011)も変わり種だがなかなかに優れた作品だった。マネーゲームに翻弄される人々の生き様を描いた金融サスペンス、というテーマも珍しく感じたが、拝金主義的な香港のリアルを抉り出したものかもしれない。そしてトー映画としては珍しく、登場人物たちの行動が非常に生臭くドロドロと描かれ、ある意味異色な作品ともとれるが、その緊迫感は圧倒的であった。

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スリ』 (2008)はスリ集団の苛烈な犯罪事件を描くものではなく、主人公らスリ集団が謎の美女を救出すべく画策するというもの。シリアスなサスペンスと思わせてスリ集団のじゃれ合うが如き和気あいあいとした関係になぜか和み、同じ女に騙され翻弄されるトホホな状況にちょっと笑わされる。さらにスリ集団はいつもやられっぱなしで妙に情けない。なにか学園のバカ男子集団とマドンナとの叶わぬ思いを描いた物語にすら見えてしまう。そういった物語とは別に、画面に映し出される香港の街並み(しかも珍しく昼間が多い)の美しさに驚かされる。しかし、トー映画に登場する香港の街の活気と生活感は、中国併合と国家安全法が施行された現在、その輝きを過去のものとしてしまったのではないか。そう考えると、トーが描く自由闊達な香港は、もはや映画の中だけの存在する幻想の光景のように思え、奇妙な寂しさを覚えてしまった。そういった部分に於いても価値のある作品なのではないだろうか。

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さて、ざっとジョニー・トー映画を追い掛けてきたのだが、ここでオレのジョニー・トー映画ベスト5を挙げておこう。

1位:Needing You

2位:ドラッグ・ウォー 毒戦

3位:PTU

4位:スリ

5位:エグザイル/絆

 ……となる。う~ん、さすがオレが選ぶだけあって偏ってるね!ファンの方怒らないでくれ!『Needing You』のひたすらドライなラブコメ描写、『ドラッグ・ウォー 毒戦』のファナティックな興奮、『PTU』の夜の香港の街の美しさ、『スリ』の昼の香港の街の美しさ、そして『エグザイル/絆』の訳の分からないカッコよさ、そういった部分がよかった。総論するなら、ジョニー・トーはオレにとって香港ノワールの監督というよりも、型にはまることなくエキセントリックな作品を率先的に撮ろうとする異能のアジア監督という印象だった。

という訳で2回に分けてお送りした【ジョニー・トー映画を観まくった!】でありました!どうもお粗末さま!