『ベイビー・ブローカー』を中心に最近ダラ観したDVDとかサブスクとか

ベイビー・ブローカー (監督:是枝裕和 2022年韓国映画

捨て子専門の「赤ちゃんボックス」から赤ん坊を盗み出し売買する男たちと母親との物語。とはいえ犯罪映画ではなく人間ドラマ。韓国人俳優出演による韓国映画ではあるが監督は『万引き家族』の是枝裕和

この物語では本来家族である者同士が家族で居続ける事ができず、家族ではなかった者同士が家族のように肩を寄せ合う。言うなれば「擬似家族」の話ではあるが、では何故「擬似家族」なんだろうと考えるに、もう「家族の物語」は限界なのだろうと。

「家族の物語」が限界なのだとしても、個として生きるしかない、という結論はやはりあまりに辛すぎる。だから人は「擬似」であろうと「家族」に似たものを探してしまう。とはいえ回り回って結局これも「”家族”の物語」ではある。人は何かどこか、それが他人であろうと「温もり」に似たものを探してしまうものなのではないか、それが種としての習性、あるいは人としての業なのではないか。

例えば人と人が繋がる最も強烈な感情は愛であったり性であったりするのだけれども、しかしそれは強烈すぎるもので、だからこそ物語的には見栄えがするし成立もさせやすいが、実のところ人間ってのは、のべつまくなしにそんな強い感情なんか抱きながら生きてけないし生きているものでもない。そうじゃなくもっとふわっと緩く安心を得られるレベルで繋がりあえる感情、それは血縁に寄るものではない、例えばこの物語にあるような「擬似家族」的なものなのかもしれない。

で、それは否定できないにしても、やはり人はおいそれと他人に気安く心を許したり預けたりはできないもので、そのジレンマ、あるいは悲哀がこの物語ではないのか。そんな事を考えたのであった。映画自体は性善説的な観点で正攻法でしっかりとした撮り方をされ、嫌味のない堂々とした作品ではあるが、カタルシスに乏しく若干ゆったり過ぎたかな。

万引き家族 (監督:是枝裕和 2018年日本映画)

『ベイビー・ブローカー』がなかなか面白かったので同じ是枝監督の『万引き家族』を今頃やっと観た。「パルムドール受賞の話題作」だったのでちょっと敬遠していたのである(←へそ曲がり)。この『万引き家族』もまた『ベイビー・ブローカー』と同じ「疑似家族」の物語だが、『ベイビー・ブローカー』と比べるならそこに困窮と社会的弱者の要素が加わり、なお一層抜き差しならない状況を物語化している。雑然とした住居と役者たちの醸し出すリアリズムも迫真的であり、シナリオも編集も密でさすが傑作と謳われただけあると納得させられる。

登場人物たちのどこかアバウトな・インチキな人間性と倫理観は、逆にかつての日本人というのはこの程度にはアナーキーな社会性の元に生きていたのではないか、とちょっと思ってしまった。オレの子供の頃の、昭和30・40年代のド田舎の生活などは、大概こんなものだったのだ。それが時代を経るごとに総中流化による都市化と洗練性を獲得しはしたが、2000年代に加速してきた貧困化により元の木阿弥へと至ったのがこの『万引き家族』の光景であるように思えてしまった。

藁にもすがる獣たち (監督:キム・ヨンフン 2020年韓国映画

金に困った連中が大金の入ったバッグを巡り血で血を洗う泥沼の争いを繰り広げるお話で、曽根圭介の小説を韓国で映画化したもの。韓国作品らしい胸糞悪い映画なんだろうなあと思ってたらやっぱり胸糞悪い映画だった。とはいえ演出やシナリオ、構成に幾つかの無理があり、「その展開おかしくないか?」とあれこれ疑問が湧いてしまったのも確か。胸糞演出を最優先にしたせいか辻褄が合わない部分が放置されているんだよな。胸糞悪くてもいいからお話はちゃんとしてほしかった。

フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話 (監督:アンドリュー・ラウ 2019年中国映画)

2018年に実際に中国で起こった航空事故からの生還を映画化した作品。中国映画あるあるのノイズは多少あるけれども、映画自体はかなりしっかり作られており、見せ方も相当に巧い。カット割りや編集のテンポが絶妙で、観ていて引き込まれるのだ。これはかなり実力のあるスタッフによるものだな、と思ってたら監督が『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウと知って大いに頷いた。奔走する乗務員たちの姿も真に迫っており、最初「単なる美人」で占められたキャビンアテンダントの皆さんが次第に髪振り乱し汗まみれで奔走する様にはびっくりさせられた。でもこれ、生還した事故だから美談として映画化されたわけで、全員死亡の事故は中国だったら隠蔽されるんだよね……とちょっとだけ思ってしまった。

クライム・キーパー 香港捜査官 (監督:ユエン・ウーピン 1989年香港映画)

ドニーさん主演ということで観てみたが、監督のユエン・ウーピンも数々の名作香港アクションを撮り、さらに『マトリックス』『キル・ビル』でアクション監督を務めた人なんだ。1989年製作なので全般的に風俗描写が古臭く、お話のほうは実の所あってないようなもので、逆にツッコミ所だらけなんだが、それよりもなにしろアクションが凄い!ドニーさんの電光石火の動きも相当に凄まじかったが、共演女子シンシア・カーンもそれに負けず劣らずのスピード感!危険すぎて観ていて変な声が出ちゃったシーンも多数、もう全編ただただアクションに見惚れていればそれでいい、という作品だった。