フランス映画『パリタクシー』を観た。

パリタクシー (監督:クリスチャン・カリオン 2022年フランス映画)

フランス映画『パリタクシー』はパリを舞台としたヒューマンドラマです。主人公はやさぐれ気味のタクシー運転手。彼は今日、養護施設に向かう高齢の御婦人をタクシーに載せます。御婦人の願いでパリの思い出の地を巡り思い出話を聞くうちに、主人公は彼女の辛く厳しかった人生を知り、同時に二人には奇妙な信頼関係が生まれてゆきます。タクシー運転手シャルルを『ミックマック』のダニー・ブーン、高齢の御婦人マドレーヌをフランスの国民的シャンソン歌手リーヌ・ルノーが演じます。監督・脚本は『線上のアリア』のクリスチャン・カリオン。

【物語】無愛想なタクシー運転手シャルルは、金も休みもなく免停寸前で、人生最大の危機に陥っていた。そんな折、彼は92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送ることに。終活に向かうというマドレーヌは、シャルルに次々と寄り道を依頼する。彼女が人生を過ごしたパリの街には多くの秘密が隠されており、寄り道をするたびに、マドレーヌの意外な過去が明らかになる。そしてそのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かしていく。

パリタクシー : 作品情報 - 映画.com

パリが舞台でタクシー運転手が主人公、ということで、この作品では映画の間中ずっとパリの街並みを眺めることができるんですね。老婦人マドレーヌの注文する行先は彼女のかつての生家やささやかな思い出の場所だったりするので、パリの名所観光という訳ではありませんが、それでもパリの日常的な風景が眺められるのはちょっと楽しかったりしますね。同時にこの作品は殆どタクシーに乗っている状態で進んでゆきますから、パリの道路事情や酷い渋滞も同時に体験できて一挙両得です!?

映画に登場する老婦人マドレーヌは92歳という設定になっているんですが、それでも物凄く若く見えるし同時に魅力的な女性なんですね。演じるリーヌ・ルノーは非常に有名なシャンソン歌手だそうですが、実際の年齢を確認したらビックリ!この御姿で94歳なのだとか!?というか映画の設定よりも御高齢!まだまだ全然素敵な女性でびっくりしてしまいました。

ついでに主人公のシャルルを演じるのダニー・ブーンの写真も上げときます。フランス映画ってこういう生活感のあるちょっと草臥れたルックスの男優が好きですよね。彼の主演したジャン=ピエール・ジュネ監督映画『ミックマック』はなかなか面白い映画でしたよ。

物語は老婦人マドレーヌがタクシーの中で自らの人生を、少女の頃の熱烈な恋の話から順を追って語ってゆく、といった形で進んでゆきます。こういった映画作品なので観る側としても老婦人の「驚くべき過去」とか「泣いたり笑ったりで最後はほっこり」とか「実は正体は凄い人」とかいった物語が存在するのかな、なんて想像しながら観るじゃないですか。そうしたら想像もしない辛く厳しい過去が語られちゃって、おまけに「ほっこり」味など微塵も無くて、ちょっと驚かされました。そしてその「辛く厳しい過去」というのは、実は戦中戦後から現代に生きたフランス女性の、フランスという国ならではの女性の生き難さが描かれたものでもあったのです。

こうした中次第に心を通わせてゆくシャルルとマドレーヌ、そしてこの出会いにより心の中にちょっとした変化が訪れるシャルル、マドレーヌを養護施設に送ったあとに語られるクライマックス、なんて形で物語は進んでゆきますが、この辺りはお約束というかほぼ想像通りの展開で、ある意味予定調和的でもあります。ですからこういった「予定調和的な安心できるヒューマンドラマ」の好きな層向けの作品であるとも言えます。とはいえ自分だって予定調和的な勧善懲悪の物語は好きですから、映画の予定調和って一概に否定できるものではありません。

とても記憶に残ったのは、マドレーヌの回想シーンで常に甘く切ない英語のポップソングが流れる事でしたね。フランス映画なのになぜ英語のポップソングなのだろう?と思わされますが、これはマドレーヌが最初に出会った男性というのが、第2次大戦終結時にフランスに出征していたアメリカ軍人だったからということなのでしょう。そして英語のポップソングが最後まで流れるのは、マドレーヌが辛く厳しい彼女の人生の中で、その男性を終生想い続けたからなのだろうな、と思いました。