韓国映画落穂拾い:ポン・ジュノ監督篇

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去年から韓国映画探訪の旅をしばらく続けていたが、だいたいの有名作、話題作を観る事が出来たので、ここで一旦休止することにした。ただしその中で興味を覚えた、ポン・ジュノパク・チャヌク監督作品にまだ幾つか観ていない作品があったので、「落穂拾い」ということで何作か観ておくことにした。今回はポン・ジュノ監督作を3作。

ほえる犬は噛まない (監督:ポン・ジュノ 2000年韓国映画

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ポン・ジュノ監督による長編初監督作。舞台は巨大マンション、大学教授のポストを巡り四苦八苦する男が鳴き声に苛ついて他人の飼い犬を隠してしまい、それを管理事務所に勤める冴えない女子が探し始める、といった事から始まる奇妙な人間ドラマ。中盤を過ぎても何の物語なのかがさっぱり分からないまま進行してゆき、にもかかわらずなぜか目が離せない、不思議な緊張感が溢れているのだ。ある意味ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』前半を思わすものがあるが、しかしここで描かれるものはごくありふれた日常の光景であり、そこで暮らす人々のやりとりでしかない。

だが、その人間臭い、そして微妙に可笑しな、あるいは不気味なエピソードの在り方に、ついつい注視してしまう。ここには人間感情の様々な側面がレイヤーとなって存在し、どれか一つにのみスポットを当てるわけでもなく、それらは現れては消えてゆく。この掴み所の無さが逆に物語への興味を掻き立てさせる。物語それ自体はアイロニカルなトーンで覆われるが、善人悪人といった明確な線引きの無い部分は監督の『母なる証明』と通じるものがある。このような構成を可能にするために注がれた恐るべきバランス感覚になにしろ驚かされる。また、主演であるペ・ドゥナの、ひたすら自然体な演技がもたらす空気感に負う部分も多いだろう。

なにげなくありふれたものから黄金のように充実した物語を紡いだこの作品、長編初監督作にしてこれはポン・ジュノ監督の最高傑作であり、韓国映画最高の収穫の一つなのではないか。最後の最後で素晴らしい作品を引き当てた気分だ。

■スノー・ピアサー (監督:ポン・ジュノ 2013年韓国・フランス・チェコアメリカ映画)

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 ポン・ジュノ監督が海外進出を果たしたSF作品。SF映画の好きなオレではあるが、この作品は粗筋だけ読んで「これは観なくていいだろ」と思えたほど魅力を感じなかったのだが、実際観てみるとやはり不安は的中だった。氷河期に突入し絶滅した人類の最後の生き残りは世界を経巡る高速鉄道に乗っていたが、そこは恐るべき格差社会だった、というこの物語、もう設定から疑問符連発で「やらかしてしまった」感満載だ。疑問点をいちいち書く気にもなれないが、そもそも何の役にも立たない邪魔な底辺層なんかさっさと列車から放り出してしまえばいいだけの話ではないか(最後に格差の「理由」が明かされるが、これがまた非効率極まりない話)。そして希望がありそうでよく考えると希望の無いラストも脱力させられる。格差社会が暗喩ではなくあからさまな明示であり、では寓話なのかというとそういうわけでもなく、その辺りの中途半端な社会批評が物語が持つべき柔軟さを殺した作品だと思う。 

■オクジャ(監督:ポン・ジュノ 2017年韓国・アメリカ映画)

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ポン・ジュノ監督によるNetflix映画。遺伝子操作された食用豚オクジャの育成を任された韓国山奥の少女がオクジャが成長し食肉用に連れていかれるのでこれを阻止しようとするはた迷惑な話。結局不細工なCG巨大豚と純朴過ぎるガキと、分かり易いぐらい悪徳な企業と理念空回りの環境保護集団が、笑えないドタバタを繰り広げるコメディ作品にしか思えなかった。あと畜産業ナメ切ってるよな。解決したようで根本的には何も解決してないラストもどうなのよって感じだったな。この物語で解決すべき問題は「遺伝子操作された食物は是か非か」であって「どうぶつかわいそう」ではないはずだ。ただしこの作品を「山奥から都会に連れてこられたモンスターの悲劇」、すなわちキングコングの亜種だと捉えるならどうだろう。キングコング=黒人奴隷のメタファーだとするなら、ここでオクジャには何が当てはまるのか。それは海外での活躍を強いられつつ故郷への望郷に胸張り裂ける海外在住韓国人となるのか。 実は深読み可能な物語なのかもしれない。