ブライアン・イーノの新作『ザ・シップ』を聴いた。

The Ship [コレクターズ・エディション / SHM-CD仕様 / 特殊パッケージ / ボーナストラック1曲収録 / アートプリント4枚封入 / 8Pブックレット / 国内盤] (BRC505CE)
ブライアン・イーノの新作は「アンビエント+ヴォーカル」なのだという。しかし人間の耳はヴォーカル(声)という「中音」が入るとおのずとそれを「聴こう」としてしまう構造をもっているので、これではいわゆる「環境音楽」としては成立しない。ではヴォーカル・アルバムなのかと言うと、そういった類のものとはちょっと違う。何か奇妙で、自分には未だ消化できない音である。
そしてこのアルバムは今年逝去したデヴィッド・ボウイに捧げられているということらしい。ただしアルバムの内容自体にそれが関わっているということはないだろう。とはいえ、アルバム2曲目「Fickle Sun (i)」は、よく聴くならこれはボウイのアルバム『ロウ』に収められた「サブテラニアンズ」の18分に渡るイーノ・バージョンとも言える作品で、最初に聴いた時は驚いた。
しかしボウイが『ロウ』後半のシンセサイザー音の奔流の中で歌った歌詞が「ホネティック・ランゲッジ」と呼ばれる「創作言語=意味性の喪失した言語」だったのに対し、きちんとした英語で歌われるイーノのそれはある種の意味性をどうしても付加してしまうといった部分で「サブテラニアンズ」とは別の響きを感じる。これは当然だが楽曲の中で意図するものが別だからだ。
その意図とはなにかというとやはり今作のコンセプトだろう。イーノのインタビューによるとタイトル『The Ship』の「船」とはタイタニック号を指し、それは科学の粋を結集したものが、結局は潰えてしまう、そういった虚無的な状況を言い表してるのだという。そうした「アンビエント+ヴォーカル」コンセプトで構成されたアルバムのラストは ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァー「I'm Set Free」だ。ここだけアンビエントから離れた普通のヴォーカル楽曲だ。これは虚無的な状況から解き放たれた「自由」を標榜するのと同時に、それもまた「自由」という名の「逃避」ではないのかという不安を残す。なんだろう、このイーノにしては奇妙にペシミスティックな構成は。なにかどんよりとしてもさもさとした悲哀ばかりが後を引く。
日本盤はこの後「Away」というボーナストラックが入る。また、コレクターズ・エディション盤では特殊ブックレット仕様でさらに数枚のアートプリントが封入される。遥か昔、オレが初めてイーノと出会ったアルバム『ビフォー・アンド・アフター・サイエンス』でもとても美しい水彩画のアートプリントが入っていて、10代の頃のオレの宝物だった。なんだかそれを思い出した。
《試聴》