ミラクルパワーを手に入れちゃった!?〜映画『ミラクル・ニール!』

■ミラクル・ニール! (監督:テリー・ジョーンズ 2015年イギリス映画)


「冴えない男がミラクル・パワーを手に入れた!?」というSFコメディです。主演は冴えない男を演じさせたら右に出る者のいないサイモン・ペッグ、ヒロインにケイト・ベッキンセール。二人に絡む"人間の言葉を喋る犬"デニスの声を故ロビン・ウィリアムズがあてていて、これが彼の最後の作品になったとか。また、この作品はモンティ・パイソン作品でもあります。監督のテリー・ジョーンズはモンティ映画ではお馴染みの監督であり、作品に登場するエイリアンの声をモンティの面々が演じていたりするんですね。
物語は太陽系の外れから始まります。クラゲみたいな形をした巨大宇宙船の中でエイリアンたちが「地球人は銀河系知的種族にふさわしい存在かどうか」を議論しているんです。彼らは無作為に抽出した一人の地球人にミラクルパワーを与え、その力の使い方を観察して優良種族か劣等種族かを決めようとしていました。劣等種族と判断されたら地球は破壊!かくして一人の男が何も知らずに地球の運命を担うことになります。男の名はニール(サイモン・ペッグ)、ロンドンで学校教師を務めるしがない独身男。ミラクルパワーを手に入れた二ールは、こりゃ幸いとその力を使いますが、遣る事成す事全て裏目に!?果たして地球の運命やいかに!?
そんな映画『ミラクル・ニール!』、サイモン・ペッグの軽妙洒脱なコメディ演技が相変わらず楽しませてくれる作品でした。物語構成は藤子不二雄のSF短編漫画を思わすような定番的なSFネタから始まります。遥かに科学文明の発達したエイリアンたちが地球の存在をゴミみたいに扱うところは『銀河ヒッチハイクガイド』を連想させるでしょう。ミラクルパワーを手に入れてからはかの有名なジェイコブズの短編怪奇小説猿の手』を彷彿させる「望んだことが全て裏目に」という展開を見せます。そしてその全体はモンティ・パイソンならではの下品でナンセンスなギャグで満ち満ちているんですね。
とはいえ仕上がり自体はかなりライトで、超絶的なSF展開を見せたりとかモンティ流の狂気や黒さとかはそれほどありません。ギャグのセンスもドタバタというよりクスリと笑わせるスマートなもので、多少下ネタも入ってますが小中学生でも楽しめる様な敷居の低さがあり、だからちょっぴり笑えるコメディを気軽に楽しむつもりで観るのが正解かと思います。そしてこの肩ひじ張らない気楽さ、というのが物語をとてもチャーミングなものにしており、観終った後ほんわかした気持ちで劇場を出ることができるのがいいですね。劇場のお客さんも結構10代の男の子女の子が多かったりしました。
この作品でなによりも楽しめたのは"喋る犬"デニスの存在ですね。喋れるようになってもそこは犬、「ビスケット欲しい!」「ご主人様愛してる!」とかしか言わないんですよ。こんなこと人間の言葉で喋らなくても、犬の態度でだいたい分かりそうなことなんですが、それをあえて人間の言葉で喋らすことがなんだか可笑しい。うんざりした主人公がミラクルパワーで「もっと合理的な思考をしなさい」と命ずるも、今度は「合理的にいってビスケットが欲しい!」とかやるもんですから大爆笑です。このデニスは単に喋れるようになるだけでなく、最後まで物語の鍵となるんですが、なにしろ愛くるしくて、案外この作品、犬好きの為に作られた作品だということができるかもしれません。
一方もう一つの物語のカナメは主人公ニールとアパートの別の部屋に住むキャサリンケイト・ベッキンセール)との恋愛模様となります。ミラクルパワーを使えば恋愛なんて思い通りにできそうなものですが、あえてそうしない(ならない)所にこの作品の爽やかさがあります。モンティが参加しているのになんでしょうこの生真面目さは。そもそも主人公はミラクルパワーを持っているのに、大金をせしめたりとか悠々自適の生活とかにあまり興味を持たず、思い付きで行き当たりばったりにしか使わない、なんていう部分にこの主人公の小物ぶりが現れてて、そんな所がまた可笑しいしキュートな作品なんですね。
というわけでこの『ミラクル・ニール!』、感動の超大作!とか心を掻き毟る問題作!というのでは全然無い、ユルくてホッとさせられる掌編ならではの温かさがとても気にいった作品でした。

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