片思いの彼の匂いをクンカクンカしまくるの!〜ラーニー・ムカルジー主演映画『Aiyyaa』

■Aiyyaa (監督:サチン・クンダルカル 2012年インド映画)

■クールなイケメンに恋しちゃった!?

クールでニヒルなイケメン男性に恋しちゃった女性が、なんとか彼に近づきたい!と思いつつも果たせず、妄想ばかり膨らませているうちに別の男性との結婚が決まってさあタイヘン!?というロマンチック・コメディです。しかし「ああ、インド映画によくあるアレね」と思ったら大間違い、おかしな人たちが次から次へと現れる、なーんだかミョーなテイストに溢れた作品なんですよこれ。主演はラーニー・ムカルジー、イケメン男性をプリトヴィーラージが演じております。

《物語》ヒンディー映画が大好きなミーナークシー(ラーニー・ムカルジー)は夢見がちな女性でした。彼女は大学図書館で司書の仕事を始めますが、その大学で無口でクールな学生スーリヤ(プリトヴィーラージ)に一目惚れしてしまいます。しかしスーリヤはひたすらつっけんどんな男で、取りつく島がありません。ああ…なんとか彼に近づきたい…彼といっしょにあんなことやこんなことをしてみたい…こうしてミーナークシーの想いも妄想も膨らむばかり。遂に彼女はこっそりスーリヤを追いかけまわすようになり、それは次第に度を越してゆくのですが、そんな彼女に家族が結婚話をもってきてしまいます。

■片思い女性の恋の行方

一人の女性の片思いの物語、と書くといじらしいのですが、物語の主人公ミーナークシーは片思いをこじらせた挙句殆どストーカーまがいの行動に打って出る、という部分から既にユニークな作品です。このストーカーぶりはどこかフランス映画『アメリ』を思い出させますが、片思い女性の恋の行方をキュートでポップな美術と物語運びで描いた『アメリ』と違い、この『Aiyyaa』はひたすら【変】な方向へと脱線しまくるところが独特なんですね。この【変】さがコメディとして大いに笑いへと持って行く、というならまだしも、むしろ「なんなのこれ?」と呆気にとられちゃうような訳の分からなさと必然性の無さに満ちているんです。

冒頭ではヒンディー映画好きなミーナークシーが、脳内妄想で女優となり歌って踊る姿が描かれますが、なんだか馬鹿でかいサングラスを掛けチープな電子音楽でヘコヘコ踊ってて、コミカルではありますが「なんか…変」なんですね。そしてスーリヤに恋したミーナークシーが常にとる行動が、スーリヤの残り香をクンカクンカ…クンカクンカ…と嗅ぎまわるというものなんですよ。この「スーリヤの独特の匂い」には最終的に理由が付けられますけれども、しかしヒロインが男性の残り香を嗅ぎまわるなんてロマンス映画はちょっと珍しいし、観ようによってはなんだかキモイかもしれませんよね。

■なんだかおかしな物語?

おかしなのはミーナークシーだけではありません。彼女の周囲の人物たちがそれ以上におかしいんです。まず彼女の家族、父母にしても弟にしても妙に素っ頓狂な人物たちです。さらに彼女の全盲のお婆ちゃんは意味もなくハイテンションでいつも訳の分からないことを喚きまわり、電動車椅子で暴走しまくっています。そんな彼女の家の前にはドでかいゴミ収集箱が置いてあり、近所の家のゴミで溢れかえっているばかりか強烈な臭いを放っています。しかしこのゴミ箱がなにか物語に関わるかというとそういうこともないんです(でも見落としてるかも)。そしてミーナークシーの同僚女性マイナー(アニター・ダーテー)はレディー・ガガに憧れているという設定で、いつも変なファッションと変な言動と変な顔、という強烈な個性を全開しまくっているんです。

この作品の【変】さはあの摩訶不思議なマサラ・ウェスタン映画『Quick Gun Murugun』(レビュー)に通じる部分がありますが、あそこまでシュールに徹しているというわけでもないんです。こんな余計な枝葉だらけの設定と、脇道ばかり逸れるプロット、笑いへと持ち込まず【変】なだけで終わってしまう描写、といった、なんだか収まりの悪いこの作品、通常なら駄作にしかならないのですが、観ていると「ま、いっか」と思えてしまい、なんだか受け入れてしまえるから不思議なんですよ。それはどうやら主演を演じるラーニー・ムカルジーのキュートな熱演に負うところが大きいような気がします。イケメン男プリトヴィーラージの渋い魅力も捨てがたい。こんな具合に『Aiyyaa』はなんだか奇妙ですが愛すべき作品として完成しているんですね。

http://www.youtube.com/watch?v=VfvwTtJO1pY:movie:W620