惑星パンドラという「もう一つの現実」を生きる——映画『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』

アバター:ファイアー・アンド・アッシュ (監督:ジェームズ・キャメロン 2025年アメリカ映画)

映画を「観る」のではなく「別世界を旅する」体験

世界をまるごと一つ作り上げ、その隅々までを旅し、自らがそこに生きているかのような体験を得ながら、その世界のすべてを味わい尽くしたい。「ここではないどこか」に生きる「分身=アバター」として——。 ジェームズ・キャメロンが手掛ける「アバター」シリーズには、人が架空の世界に抱くこうした根源的な欲望が満ち溢れている。これは決してキャメロンの専売特許ではなく、古くは「サーガ」と呼ばれる長大な叙事詩が、あるいは現代のMMORPGが担ってきた役割そのものである。

キャメロンは「惑星パンドラ」を徹底的に構築し、そこを体験させる場として映画を設計した。パンドラは完璧を目指して造形された「もう一つの現実」であり、その広大さゆえに、描き出す時間は長大にならざるを得ない。全5作に及ぶという壮大な宣言を経て、今、その第3作目『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』が公開された。

本シリーズの真の主役は、ジェイクら登場人物ではなく「惑星パンドラ」そのものである。圧倒的なリアリティを伴う別世界を映像化することこそがこのシリーズの使命であり、観客がその「分身」となって冒険することこそが目的だ。だからこそタイトルは『アバター』なのであり、没入感を高める3D上映へのこだわりもそこにある。ファンである私も、当然ながら本作を含めた全3作を3Dで体験してきた。

普遍的なドラマという「入り口」と、映像美という「結論」

そこで避けて通れないのが「物語」の評価である。いかにパンドラが幻想的で驚異に満ちていても、情景を映すだけでは「環境ビデオ」に終始し、観客は飽きてしまう。そのため、キャメロンは「家族の絆」という極めて普遍的で分かりやすいドラマを導入した。ナヴィの姿形は人間とかけ離れていても、家族の在り方は驚くほど人間的だ。これは観客の共感を得るための、極めて自覚的な戦略だろう。

「ナヴィと地球人の対立」という軸も、ネイティブ・アメリカンと白人入植者の歴史的構造をなぞったものであり、アレゴリーとしてはあまりに直球すぎて鼻につく面があるのは否めない。しかし、こうした物語上の瑕疵(かし)を、驚異的な映像美が力技でねじ伏せてしまうのが本シリーズの凄みだ。「物語か映像か」という二者択一において、前者を取る観客には響かないかもしれないが、私のように映像美を第一義とする者にとって、本作は極上のエンターテインメント、いわば「最高級のアトラクション」なのである。

3作目で見えた課題——相似形のプロット

こうして「擁護」のごとく綴ってきたのは、アトラクションとしても、3作目にはもう少しひねりが欲しかったという本音があるからだ。率直に言えば、本作のプロットは前作『ウェイ・オブ・ウォーター』と酷似している。もともと前作の膨大なシナリオを二分割して制作されたという経緯もあり、構造が相似形を成してしまったのだろう。目くるめく映像体験に満足しつつも、既視感に苛まれるという「痛し痒し」の展開であった。

とはいえ、本作ならではの見どころも確かに存在する。まずは人間の少年・スパイダーに関する衝撃の新事実だ。これはパンドラ世界の根幹に直結しており、今後の展開から目が離せない。また、アバターとして復活したクオリッチ大佐の、自身のアイデンティティに対する揺らぎも大きな見どころだ。単なる憎まれ役に留まらない深みが見え始めている。

そして最大の白眉は、アッシュ族のリーダー・ヴァランの存在だ。禍々しい深紅の髪飾りが印象的な彼女は、同族を襲う非道な悪党として描かれ、クオリッチと同盟を組んでジェイクらを追い詰める。これまで「迫害される正義」として描かれがちだったナヴィの中にも、決して一枚岩ではない複雑な社会があることを示した点は、物語に新たな層をもたらした。

スピリチュアルを「物理」に読み解く面白さ

また、1作目から提示されていた「ガイア理論」のパンドラ的応用が、より具体性を増している点も興味深い。全生物が神経系をリンクできる設定は、ある種の「惑星規模のコンピュータ・ネットワーク」が存在しているとも解釈できる。ナヴィたちが神経ネットワークを通じて故人と話せるという設定は、これはネットワーク上のメモリに存在するから、ととることもできるのだ。これまでスピリチュアルに語られてきた設定だが、こういった形で物理的なSF設定として捉え直すと非常に刺激的だ。このあたりは、今後の物語でさらに深掘りしてほしい部分である。

総じて、『アバター:ファイアー・アンド・アッシュ』の映像美と没入感は、改めて語るまでもなく驚異的だ。物語のプロットには物足りなさが残るものの、新たに登場した火種は、次作への期待を繋ぐには十分である。パンドラの真の姿が明かされるであろう第4作目は、既に撮影を終えているという。その到着を、今は心待ちにしたい。

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