『エージェント・ライアン』はトム・クランシーの臭みにうんざりさせられる映画だったなあ

■エージェント・ライアン (監督:ケネス・ブラナー 2014年アメリカ映画)


作家トム・クランシ―の創造したCIAアナリスト、ジャック・ライアンを主人公にしたシリーズ新作『エージェント・ライアン』を観た。ジャック・ライアン物の映画といえばこれまでアレック・ボールドウィンが主演の『レッド・オクトーバーを追え!(1990)』、ハリソン・フォード主演の『パトリオット・ゲーム(1992)』と『今そこにある危機(1994)』、ベン・アフレック主演『トータル・フィアーズ(2002)』がそれぞれ存在するが、観たことがあるのは『レッド・オクトーバーを追え!』と『トータル・フィアーズ』の2作だけかな。今回シリーズ5作目となる『エージェント・ライアン』はそれらの作品をさかのぼり、さらに舞台を現代に時間調整し、CIAにリクルートされたてのジャック・ライアンの初仕事を描くリブート作となっている。今回原作小説は存在せず、映画用のオリジナル・ストーリーなのだという。
お話はアフガン戦争での活躍をきっかけにCIAアナリストとしてリクルートされたジャック・ライアンが、モスクワにある投資会社の不穏な動きを察知し、現地に飛んで調査を開始した所、株式暴落によるアメリカ崩壊を狙ったテロ計画が進行していることを知る、といったもの。ケネス・ブラナー監督による演出は無駄が無く否応なしにサスペンスを盛り上げる。正体を隠しての潜入捜査、初めての任務の緊張感、突然の襲撃、悪玉との丁々発止の腹の探り合い、ハイテクを駆使したデータ侵入、追いつ追われつのアクション、クライマックスの爆破テロ阻止への苦闘。どことなく70年代サスペンスぽい古臭さと既視感はあるものの、エンターティンメント作品としては手堅くまとまった作品だといえる。
主演はジャック・ライアンを新生『スター・トレック』のクリス・パインが演じ、『スター・トレック』同様の青二才感を漂わす。ジャック・ライアンの妻をキーラ・ナイトレイ。この女優は好きなので眼福であった。ジャックの上司をケヴィン・コスナー、ジャックを追いつめる悪玉を監督ケネス・ブラナーが自ら演じている。
しかし出来こそ悪くはないと思いつつ、作品全体に漂う"トム・クランシー臭さ"が非常に鼻に付き、どうもいい印象がない映画であることも確かだ。トム・クランシ―の小説はそのタカ派的な作風に閉口させられ、ちょっと読んだだけで嫌気がさしたほどだ。とにかくロシア・ソ連は冷酷無比で頭のおかしいサイコパス国家として登場し、アメリカは正義と愛国心でもってそれと神聖なる戦いを繰り広げるのだ。この『エージェント・ライアン』でもロシアの一部高官の暴走という形はとられてはいるが、結局ロシアは陰謀と恐怖の支配する国扱いで、「いまどきこれを正面からやっちゃうのか?」と思わせる。それに対するCIAは優秀過ぎるほど優秀な集団として登場し、蒙昧なロシアの姑息な陰謀を英知と高潔さで叩き潰す、というわけだ。
それとこれがトム・クランシ―臭さなのかは別として、何も知らないジャックの一般人の嫁が容易くCIAの作戦に参加し、危機に陥った挙句ジャックとCIA騎士団が白馬に乗った王子様の如く救出する、といったくだりは流石に鼻白んだ。こういった大時代性に実にうんざりさせられたのも確かで、そもそもこれが嫌だったのでジャック・ライアン映画はそれほど観ていなかったのだ。トム・クランシ―、その軍事オタクぶりからミリタリー・ゲーム制作の方面でも非常に活躍しており、ゲーム方面に関してはお気に入りのゲームも多々あるのだが、こと物語に関しては、やはりリブート作でもその臭みは抜く事ができなかったようだ。

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