映画『スティーヴン・キングは殺せない!?』はキング・ファンもそうじゃない人も、全く観る必要なし!

スティーヴン・キングは殺せない!? (監督:ホルヘ・バルデス・イガ、ロニー・カリル 2013年アメリカ映画)


スティーヴン・キングの小説が好きだ。まあ全作読破!とまではいかないけれども、だいたいの長編は読んでいるつもりだ。最近読んだ『11/22/63』も、その完成度の高さ、ホラー展開だけではない物語の豊かさに非常に感銘を受けた。
そんな、オレの大好きなスティーヴン・キングの名を冠したホラー映画があるという。タイトルは『スティーヴン・キングは殺せない!?』。…う〜む、なんだか聞いたことがない映画だ。オチャラケたタイトルからはどうにも地雷クサイ臭いがする。レヴューを読んでも切って捨てられているか口にモノを挟んだような評し方だ。観るまでも無く愚作だとオレのガイアが呟いている。
しかしだ…いくら地雷だ愚作だと分かっていても、キングの名が付いている映画だ。どんな風に地雷か愚作かこの目で確かめるのもファンの務めではないか…。ダメ映画ならダメ映画で、なにかのネタにはなるだろう、少なくともこうしてレヴューを書くことで、他のキング・ファンの皆さんに、どれだけしょうもなかったかをお伝えできるではないか…、とまあ誰に頼まれたわけでもないのに義務感に駆られ、観てみることにしたのである。
お話は6人の若者が車でどこぞの湖にバケーションに出かけるところから始まる。しかもその土地はキングの住む土地だという。ああ…キングゆかりの辺鄙な田舎でこの若者たちが次々に惨殺されるわけね…。この今更感溢れる陳腐なシチュエーションにまずしみじみと萎えさせられる。
で、その湖を見ると遠くに艀が浮かんでいる。ああ…キングの短編「浮き台」だね…そして湖に浮かぶボートの名前は「クリスティーン」…はいはい、キングですね、はいはい。さらに若者たちが寄ったダイナーのウェイトレスはキャシー・ベイツ似。はいはい、『ミザリー』ですよね、はいはい。さらに登場人物の一人でキングオタクの兄ちゃんは、自分の指に話しかけたり「レッドラーム」とか突然喚いたりする。あーはい、「シャイニング」ですね、分かってますってば。あとピエロ姿の悪夢は「IT」ですね、はいはい…。
とまあこんな具合にキング小説の小ネタをちりばめながら映画は進むというわけである。じゃあキング・ファンにとっちゃあ結構楽しいんじゃない?と思われるかもしれないが、実際の所、楽しくない。何故か?どれもこれもあざといのだ。「どう?これ観てるアンタ、キングファンでしょ?こういうの楽しいでしょ?」とニヤニヤされながら言われているようで、イラッと来るのだ。何よりもうんざりさせられたのは、これらキングネタが何のひねりも無くただ羅列されるだけ。キング作品を思わせる展開があるとか、「あーこれはキングの〇〇だったか!」みたいな考えオチ的なものは全く無し。
そして最も致命的なのは「湖畔の別荘で若者たちが次々ぶっ殺される」という退屈すぎるホラーシチュエーション自体が、そもそもキング的ではない、ということだ。さらに若者たちの殺され方がまた、呆れるほど平凡で、全然キング的じゃない、という部分だ。いや、物語では「この殺し方はキングの〇〇だな!」とかはやるのだが、何故だかわざわざ「そんなのあったっけ?」という短編タイトルばかりで、観ていて全然盛り上がらないのだ。
キングだったら「キャリー」があるだろ?「デッドゾーン」や「ファイアスターター」はどうした?「クージョ」は、「ペット・セマタリー」はどうしたんだ?だいたい殺人鬼が登場するのに「ダーク・ハーフ」が言及されないとはどういうことだ?おいおいキングの名を冠した映画撮っといて、お前ら実は全然キング読んでないんじゃないのか?キングが好きでもなんでもないんじゃないのか?そういう苛立ちがいや増す映画なのである。
まあラストは一応「なぜキングに絡んだ殺人が行われるのか?」が説明されるんだが、それもどうにもこじつけがましく、結局よくあるスラッシャーホラーに無理矢理キングを絡めてみただけのもの以上には感じなかった。う〜んこれがYouTubeの10分ぐらいのファン・ムービーなら笑ってやりすごすんだけど、これじゃあなあ…。