■アメイジング・スパイダーマン (監督:マーク・ウェブ 2012年アメリカ映画)
サム・ライミが4作目『スパイダーマン』を降板したことから監督をマーク・ウェブに変え「んじゃリブート版でよろしく」と新たに1から話をやり直している『アメイジング・スパイダーマン』です。世間では賛否両論のようですが自分はとても面白く観れました。
ライミ版『スパイダーマン』は、これまでカルト・ホラーや良作ながら地味な作品を撮り続けていたサム・ライミがブロックバスター映画の監督に大抜擢、オレを含めライミ・ファンが「だ、大丈夫なんっすかライミさん!?」と不安と恐怖に恐れ戦いていたところ、蓋を開けてみればこれが大ヒット、ライミ・ファンも今までライミなんか知らなかったお客さんも大満足という、「大抜擢・大ヒット・大満足」の3つの"大"が揃ったライミの代表作となりましたね。その後シリーズは2作3作と製作されましたがこれも次々に大ヒット、あんまりヒットばかり飛ばすものだからかつてライミの『死霊のはらわた』や『キャプテン・スーパーマーケット』みたいなB級ホラーをゲラゲラ笑いながら観ていたファンの一人として逆にちょっと寂しくなってしまったぐらいです。
ライミ版『スパイダーマン』がよかったのはそのサービス精神旺盛なストーリー展開もさることながら、トビー・マグワイア演じる主人公ピーター・パーカーのどことなくナードでひ弱そうな部分にライミのルサンチマンを感じられたことなんですよね。観ていて「きっとこれ、ライミの青春時代がどこかしら投影されているんだろうなあ」と思えたものです。さて、新作である『アメイジング・スパイダーマン』はどうかというと、新たな主人公を演じるアンドリュー・ガーフィールド、これが普通にイケメンです。ナードでひ弱な雰囲気なんか微塵も感じません。繊細そうではありますが、きちんと明朗快活な男の子してます。そしてヒロイン。ライミ版のキルスティン・ダンストは「ちょっとブスくないか…」と各所で呟かれていたし自分も「もうちょっと美人ちゃんじゃないと盛り上がりに欠ける…」と陰口を叩いていたものですが、マーク・ウェブ版のヒロインを演じるエマ・ストーンは普通に美人ちゃんです。要するにこの『アメイジング・スパイダーマン』、「イケメン・美人の若手俳優が演じるSFとかホラー要素の青春ストーリー」という昨今ではよくあるハリウッド映画として成り立っているんですね。
ところが、観ていてエマ・ストーンの普通な美人さがなんだか面白くないんです。あれだけ陰口叩いたキルスティン・ダンストが何故だか恋しいんです。顔つきのはっきりした美人のエマ・ストーンの内面なんて別にどうでもいいと思えてしまうのですが、キルスティン・ダンストには、何か心に秘めたような表情があったんです。別れた恋人の本当の良さを関係が破局してから気付くようなものです。つまりキルスティン・ダンストの持つある種の複雑さというのは、トビー・マグワイアのひ弱なナードさと対になっており、そしてそれがライミ版『スパイダーマン』のひとつのテイストになっていたんです。そしてそれの無いマーク・ウェブ版『スパイダーマン』は、普通に素直に屈託の無い人たちしか出てこない青春ストーリーになっているんです。
じゃあこれが面白くないのかというと実はそうではなくて、こういった「普通に素直に屈託の無い人たち」の演じる青春ストーリーというのも、それはそれで爽やかで観ていて楽しいんです。こういう眩しい人たち、というのもオレは好きなんです。アメコミ・ヒーローには屈折が必要、なんて金科玉条のように言う必要なんかないんです。というか、屈折とかルサンチマンについての物語、というのが自分には段々どうでもよくなってきているんですよ。それはつまり、自分自身のかつての屈折やルサンチマンがもうどうでもいいものになっているのと通じてもいます。明るく生きられるなら明るく生きたほうがいいだろうし、真っ直ぐ生きられるなら真っ直ぐ生きればいいのだと思うんです。そういった意味で、このリブート版は大いに賛成です。正確には、ライミ版と違ってるからって、それがどうしたんだ?ということです。
そしてなにより、この『アメイジング・スパイダーマン』の最大の魅力は、3D上映であるという点です。昨今ではなんでもかんでも3Dで、逆に3D映画を敬遠している映画ファンもいるし、確かに3Dである必要がない、もしくは3Dで撮る事の利点をまるで生かしていない映画はとても多いのですが、高層ビルから高層ビルへと目もくらむような跳躍を繰り返すスパイダーマンの映画は、非常に3D向きであり、そしてこの『アメイジング・スパイダーマン 』は3D上映の醍醐味をたっぷり堪能できる作品に仕上がっているんですね。だから「リブートの理由は3Dでやりたかったから」ということでいいんじゃないかと思いますよ。そういう訳でこれから『アメイジング・スパイダーマン』を観に行かれる方は是非3Dで、出来るならIMAXシアターで観てもらいたいです。もうね、クライマックスでの跳躍に次ぐ跳躍の連続シーンは、3D感が物凄くて、ただそれだけでオレなんかは感激で目がウルウルしちゃいましたよ!それと後半のクレーンのオヤジ連中!この映画で一番格好よかったのはこのオヤジ連中だよ!オヤジ!あんたら漢だよッ!!
■アメイジング・スパイダーマン 予告編
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