雪降る夜の血の幻想〜映画『ぼくのエリ 200歳の少女』

ぼくのエリ 200歳の少女 (監督:トーマス・アルフレッドソン 2008年スウェーデン映画)


スウェーデンの首都ストックホルム郊外を舞台にしたこの映画、なにしろ北欧だけに雪深い凍えるような寒さを感じさせる陰鬱な情景の中で繰り広げられるホラー・ファンタジーだ。主人公は12歳の少年オスカー。母子家庭で友達もおらず、学校ではいじめられっ子。そんなオスカーが夜の公園で「みんなぶっ殺す!」とか鬱々としていたとき、風変わりな少女が彼の前に現れる。彼女はエリという名で、そしていきなり「あなたとはお友達にはなれない」などと言い放つのだけれど、二人はそれからも度々人目を忍んで会うようになる。そんな折、町では謎の殺人事件が連続して起きるが…というもの。
まあエリの正体は12歳という年齢で成長の止まってしまったヴァンパイアなんだけれども、オスカーはそれと知らずエリと近づいてゆくんだな。エリのほうも、血を吸うためのエサとしてではなく、一人の人間としてのオスカーに次第に興味を抱いてゆくのだよ。しかしそのうちオスカーはエリの正体がヴァンパイアだということに気付き、エリとこのまま会い続けるべきなのかどうか葛藤してしまうんだ。そしてある日、とんでもない事件が起き…。
オスカーがエリを想う気持ちは、12歳の少年だから、恋なのかなんなのかははっきりしないんだ。一方、数世紀を生き、ある意味存在することにさえ倦み疲れているかも知れないエリのオスカーへの心情も、これは普通の人間には想像も出来ないものなんだ。ただ、お互いの孤独が、そして多分絶望が、お互いを呼び合ってしまったというわけなんだ。しかし、その行く末は、どうしたって、明るく希望に満ちたものでは決して無い。エリは生血を吸い続けるだろう。オスカーはエリのために人を殺めることになるだろう。ここには、絶望から生まれ、そしてまた絶望へと消え去る、破滅的な情景しかないんだ。
ただ、今このひと時だけは、お互いがお互いを慰めあうことは出来る。「あの人はいてくれる」と、心の中に灯火を持つことは出来る。未来は陰惨でおぞましいものとなるだろうけれども、少なくとも、この今だけは。そして、それはやはり、愛するってことなんだ。この映画は、そんな、とっても寂しく悲しい、ささやかな愛情と希望についての映画でもあるんだ。もうなんというか、非常に淡白で淡々とした映画で、かと思えば突然ゾッとするような描写が挿入されるホラーらしい部分もあって、ハリウッド映画に慣れた眼で見るとちょっと静か過ぎる嫌いもあるけれども、幻想的で余韻のある作品に仕上がっていたな。