最近読んだ本 / 「ノンストップ!」、「20世紀の幽霊たち」

■ノンストップ! / サイモン・カーニック

ノンストップ! (文春文庫)

ノンストップ! (文春文庫)

電話の向こうで親友が殺された。死に際に僕の住所を殺人者に告げて。その瞬間から僕は謎の集団に追われはじめた。逃げろ!だが妻はオフィスに血痕を残して消え、警察は無実の殺人で僕を追う。走れ、逃げろ、妻子を救え!平凡な営業マンの決死の疾走24時間。

章のラストごとに山場を作って「このあといったい何が!?」と気を持たせながら次の章へと場面転換、この手法を最初の章からこつこつと繰り返し、読者をそれこそノンストップに没入させるっていうのがこの作品の作りなんですな。これ、雑誌や新聞の連載小説あたりでよく使われた手法なんじゃないかと思います。物語は一人称で語る主人公と、三人称で語られる捜査陣の行動とが交互に描かれ、これもまた物語に程良いリズムを生んでいます。ただ、ストーリーそれ自体は実はそれほど目新しいものではなく、殆ど読んでいて予想がつきそうな真相だったりしますから、途中からお話に興味が無くなっちゃってねー。それほど目新しくないからこそこういう構成が可能だったのかもしれませんけどね。それと章ごとに山場を作るために後から考えるとなんか無理があるし余計かもなあと思う場面も結構あり、これは物語のノリを取るか整合感を取るかで評価が変わってくるような気がします。そういった意味では娯楽小説としての機能はきちんと果たしているしそういったテクニックで書かれた読み物だということは分かるけれど、特別面白かったかといえばそんなでもないんだよなー、というのが感想であります。

20世紀の幽霊たち / ジョー・ヒル

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

20世紀の幽霊たち (小学館文庫)

奇妙な噂がささやかれる映画館があった。隣に座ったのは、体をのけぞらせ、ぎょろりと目を剥いて血まみれになった“あの女”だった。四年前『オズの魔法使い』上映中に一九歳の少女を襲った出来事とは!?(『二十世紀の幽霊』)そのほか、ある朝突然昆虫に変身する男を描く『蝗の歌をきくがよい』、段ボールでつくられた精密な要塞に迷い込まされる怪異を描く『自発的入院』など…。デビュー作ながら驚異の才能を見せつけて評論家の激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、国際ホラー作家協会賞の三冠を受賞した怪奇幻想短篇小説集。

スティーブン・キングの息子!各種ホラー賞総なめ!期待の新星!…ってことでかなり評判の高かったホラー作家ジョー・ヒルの短篇集を今頃手にとってみたんですが、読んでみたところ残念ながら「う〜ん、この人、下手だなあ…」というのが正直な感想でありました。出来のいい作品も2、3あるんですが、無駄な書き込みが多くてもっと刈り込みの必要な文章だったり、アイディアが練りこまれないまま文章化されて主題が曖昧だったり、バランスの悪い構成だったりと、微妙に未完成な作品が多いんですよ。もともと文学やりたかったんだけど売れるようなきちんとした作品が完成しなかったんでホラー書きました、みたいな感じで、文学コンプレックスの見え隠れしたホラーにも成りきれない中途半端な作品がそのまま提示されているんですよね。あと"出来の悪い少年時代"と"その結果の社会不適合な今の自分"を描いた作品が多すぎて、なんかよっぽど子供時代嫌な思いしたのか?とか変なことまで勘ぐってしまいます。そういった意味では引き出しも少なそうなんだよなあ。あとホラー小説作家として徹底的に残酷な部分とか狂った部分が足りないから、綺麗だけど印象の薄い結末しか書けなかったりする。いってみれば習作みたいな作品ばかりなんだけど、そういうのを発表するのは普通大作家になってからなんじゃないのかなあ。悪いところばかり挙げちゃいましたが、ちょっと惜しいなあ、と思えた作品集でありました。