男が女を殺すとき (監督:ジョー・ダンテ)

asin:B000X1EF7K
ある日突然世界中で女性ばかりが大量殺戮されるという事件が勃発する。それも男の手によって。アメリカ政府はそれが謎のウィルスの仕業であると確定するが、犯人達は皆「神の声を聴いた」と口々に呟く…。鬼才ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアのSF問題作『ラセンウジバエ解決法』をジョー・ダンテが映像化した、《13 thirteen》において個人的に最も注目をしていた作品。世界中の男が世界中の女を殺してゆく。世界の半分が世界の半分を抹殺しようとする。ただ性が違うというだけで。そこには性差別や女性虐待へのアナロジーがあるのだろうが、あまりに恐ろしい世界の終末である。女性だったらどんな風にこの物語を観るだろう。
さてジョー・ダンテによるこの作品だが、一つの家族を中心にして物語られる脚本構成が原作ファンとして多少違和感があった。愛憎や疑心暗鬼のサスペンスは、確かにお茶の間で観るならウケがいいだろうが、どうしても物語の持つスケールを小さくしてしまったような気がする。原作では人類という一つの種を突き放した目で俯瞰し、昆虫と同質のものとみなす事によって冷え冷えとした恐怖を生んでいたのだが、60分のTVムービーではそれは期待しすぎだったろうか。しかし原作そのもののラストは、やはり甘美なまでに絶望に満ちていた。苦言は呈したものの監督自ら原作の映像化を望んでいたという話で、チョイスそれ自体のセンスの良さは評価できるかもしれない。ってか「地球最後の男」なんてもう映画化しなくていいからこういうSFを映画化してもらいたいもんである。