三体(Netflixドラマ)(監督:デレク・ツァン、アンドリュー・スタントン他 2024年イギリス、アメリカ、中国製作)
劉慈欣の世界的ベストセラーSF小説『三体』がNetflixでドラマ化され配信中だ。オレは原作の大ファンで、3部作全編のみならず同人作家による公式外伝も含め読破した。『三体』は大雑把に言うならファーストコンタクトと異星人による人類侵略をテーマとしたSF作品となるが、これまで描かれたこれらテーマの作品とは一線を画す超絶的なハードSF展開と宇宙的スペクタクルに満ちているのが魅力だ。
今回ドラマ化されたのは原作『三体』3部作の第1部となる。実はこの第1部はNetflix作品とは別に中国の配信プラットフォーム・テンセントビデオによって既に実写ドラマ化されている。オレも視聴環境(Hulu)があるのだが、全30話とちと長く、全8話でまとめられたNetflix版を待つことにしたのだ。(ちなみにテンセント版は原作に忠実な展開と映像美とですこぶる評判がいいらしい。)
物語は文化大革命の最中にある1960年代の中国から始まる。その糾弾集会で物理学者の葉哲泰は「科学という名の危険思想」を持つという理由で公開処刑されてしまう。その娘・葉文潔は人類に絶望し、地球文明の情報を宇宙に発信し、人類への侵略を懇願してしまうのだ。そして数十年後の現代。世界各地で優秀な物理学者が怪死する事件が次々に発生する。それは地球外生命体「三体人」の地球侵略への第1歩だった。
原作では舞台は中国・登場人物も中国人だが、Netflix版では舞台をイギリスに変更し、登場人物も様々な人種・国籍の混淆となる。原作には十分忠実だが、科学的説明は結構端折っていて、ハードSFなアイディアをほとんど説明なしにサラッと描いたりするが、この辺りはビジュアルで雰囲気を理解できると思うので特に問題ないだろう。
実は特筆すべきなのは配役の采配だ。原作の『三体』3部作はそれぞれに主人公が違うが、このNetflix版ではそのそれぞれの主人公に該当する人物がこの「第1部」で一堂に会しているのである。それにより、原作『三体Ⅱ 暗黒森林』における「面壁者計画」、原作『三体Ⅲ 死神永生』における「階梯計画」がこのNetflix版で(ほんのさわりの部分だけではあるが)物語られることになるのだ。これはもう「第2部」「第3部」へと製作する為の布石であることは間違いないだろう。
ドラマ版として改めて物語に接してみると、科学とそれによる進歩を否定した文化大革命の愚昧さに対する、葉文潔の絶望と怨念の深さがより一層鮮明に伝わってくるように感じた。こんな世界など無くなってしまえばいい、そういった世界全てへの呪詛がこの物語のそもそもの発端である部分が実に興味深い。そして実はそれは、劉慈欣の現在の中共への遠回しな批判かもしれないとも思えてしまう。
そういった政治性を抜きにしても、「科学者の連続死」「目の前で起こる謎のカウントダウン」「明滅する夜空」といったミステリ展開は十分に楽しめる。そしてこれはあくまでSF作品であるから、それに対してどう科学的な説明を持ち込むのか、といった部分でも興味をそそられる。併せて謎の最先端ゲーム「三体」が、なぜ、何のために存在するのか、という部分にも関心が尽きない。ドラマ『三体』は、超絶的なハードSF展開のみならず、こういった細かなミステリ展開でも観る者を虜にするのだ。
それとこの作品、『ゲーム・オブ・スローンズ』のスタッフが手掛けているということだが、『ゲースロ』に出演していたジョン・ブラッドリー(”ナイツ・ウォッチ”サムウェル・ターリー役)、リアル・カニンガム(”玉葱の騎士”ダヴォス・シーワース役)ジョナサン・プライス(聖職者ハイ・スパロウ役)、マーク・ゲイティス(“鉄の銀行” ティコ・ネストリス役)が出演しているといった部分で、『ゲースロ』好きのオレはニヤリとさせられた(探せばもっといるかもしれない)。
というわけでNetflix版『三体』全8話、十分楽しみながら3日間で観終わったが、物語はドラマらしいクリフハンガーの形で終わっているのだ。この続きをだね、作るんだろうね!?いや作ってくださいよ!是非観たいですよ!!