いけちゃんとぼく / 西原理恵子

いけちゃんとぼく

いけちゃんとぼく

「いけちゃんは ずっとまえからそばにいる。 いけちゃんはなんとなく そばにる。 それから ときどき なぞだ。 それで ぼくといけちゃんは なかよしだ。 ずっと。」
風船みたいな、人魂みたいな奇妙な存在「いけちゃん」と、ちいさな男の子「ぼく」との優しく大らかだったあの日々。西原理恵子はじめての絵本。
絵本、とはいえそこは西原、大人でも十分に、いや、大人でなければ判らない苦くせつない想いを込めた少年の日の1ページ。西原お得意の淡く瑞々しい色彩の水彩画と、丸っこいにも拘らずどこかささくれた描線。大きな山、蒼く萌える草原、ゆっくり動いてゆく雲、どこまでも深い色を湛えた海、橙色をさせて傾いてゆく夕日。そして自由さと粗野さの未分化な小さな嵐のような子供時代。ある意味これまで西原が描いてきた”少年少女モノ”から外れる事は無いのだけれど、”魂”というものの存在を意識せずには居られない彼女独特のテーマはここでも頑固に繰り返される。彼女の作品には、人は生きて、そして死ぬものだ、という当たり前のことが執拗に語られる。明日あなたは消え去ってしまうかもしれないのだから、今はこれほどまでに愛しいのだ。明日自分は消え去ってしまうかもしれないのだから、今はこんなに美しいのだ。我々は無常のなかに浮かぶ一滴の共鳴する魂なのだから。
ラスト、泣きました。