大魚の話、その他の話

子供の頃両親の働いていた水産加工場で慰安旅行があり、マイクロバスを借りて「大沼」という名の沼まで出掛けたことがあった。その沼で誰かが1mはあろうかという巨大な鯉のような魚を釣り、生きたまま持ち帰って加工場の大きな鉄桶で飼っていた。その魚は数日後さばかれ加工場のみんなの胃に入ってしまった。解体された後の骨は加工場の裏に棄てられてたが、断面がちょっとしたコインの大きさほどもある魚の巨大な背骨は、なにか太古の恐竜の化石のようにもみえた。その魚の骨は暫く加工場の裏に残って朽ちていた。ちなみに食べた皆さんは腹痛に襲われたとか…。沼の主の祟り?


別の話。


その加工場の鉄桶というのは、従来、魚を加工する時取り退けられた魚の頭や臓物を棄てる為の桶なのだった。その頃、オレの両親はその加工場に住みこみで働いており、まだ学校にも行ってないオレは暇になると大人達が働く暗く魚の生臭い臭いに満ちた加工場をブラブラしていた。ある日、オレに弟が出来、小さなオレは赤ん坊の弟のお守りを任された。お守りに飽きたオレは、そうだ、大人のみんなにオレの新しい弟を紹介しようと、赤ん坊の弟を抱え上げると、加工場へと歩き出した。しかし、子供が子供を抱えているのだ。いつしか重さに耐えられなくなってしまったオレは、弟を落としてしまった。魚の腸でいっぱいになった鉄桶の中に…。そんな弟ですが、今では元気で休職中のオタク野郎に育ってます。


別の話。


オレの住んでいた町は、そんな魚の加工場でいっぱいだった。加工、というのは、魚を開きにしたり、タラコや筋子をとったり、スルメイカを乾燥させたり、そういう加工場だ。町中が魚の生臭い匂いに満ちていた。家族で旅行に行って帰ってきて、電車のホームに降り立つと、すぐに魚の匂いに迎えられた。物心付いてからラブクラフトの小説を読んだ時、インスマスって、これ、オレの生まれ故郷が舞台なんじゃないかと思ってゲラゲラ笑った。陸揚げされた魚はダンプカーの荷台にそのまま直に何百匹も積み込まれ、町の中を走った。カーブで曲がりきれなくなって、荷台の生魚をボロボロと道の上にこぼしたトラックを見た事がある。加工場では、さばかれた魚の血が出入り口から溢れ、雪の日には、加工場の連なる区域の道は、魚の血で赤く染まってどこまでも続いていた。そう、オレの町は、スプラッタ・カントリーだったのである。(グロくてスマン。)


そしてまた別の話。