自分の一番最初の記憶はどこから始まっているのだろう?と考えたことはないだろうか。そんなことが気になったのでChatGPTさんに尋ねたところ、その回答は以下のようなものだった。
人間の記憶の始まりについての研究は多岐にわたりますが、一般的には、最初の記憶は2歳から3歳の間に形成されるとされています。これは「幼児期健忘」と呼ばれる現象によるもので、多くの人がこの時期より前の出来事を覚えていないからです。
ただし、これは個人差があり、一部の人々は2歳よりも早い記憶を持っていることもあります。また、脳が完全に発達する過程や、記憶を保存し再生する能力が向上する過程に影響されるため、記憶の形成時期は人によって異なることがあります。
少なくともオレの記憶は、父と母とがいる二間だけの、狭く貧しげな部屋から始まっていた。それはいつなのか?ということを、茶の間で観たのを憶えている最古のTV番組から調べてみた。それは『宇宙人ピピ』と『スーパージェッター』、『宇宙エース』と『宇宙少年ソラン』。どれも1965年から放送されていたTVアニメ/子供番組だった。1965年というと1962年生まれのオレが3歳だった頃となる。
こうしてみるとどれもSF的な作品ばかりで、どうもこの頃から既にオレの中でSF的なるものが醸造されたように思えてしまう。調べてみると1965年にヒットしたTVアニメには『オバケのQ太郎』や『ジャングル大帝』もあり、これらも確かに観ていた記憶があるけれども、やはり強く印象に残っているのは先の4作品のようなSF的な作品になるのだ。とはいえ、これらの作品はキャラクターやタイトル、テーマソングは憶えていても物語は一切覚えていない。これは記憶の問題もあるのだろうが、3歳の子供にはまだ「物語」というものそのものが理解できなかったからではないだろうか。
同時にこの頃、父母に「あのことは憶えてないの?」とよく質問された事柄がある。それはオレが2歳の誕生日の時にプレゼントされた車のオモチャの話だ。オレはその車のオモチャを大層気に入ったらしいのだが、遊び過ぎて壊してしまったのだという。実はそのオモチャで遊ぶオレの写真も残っているのだが、オレは全く憶えていなかった。やはりどうもオレの記憶は3歳前後から始まっているのだ。とはいえ、3歳からの記憶が全てあるわけではなく、相当に朧で飛び飛びではある。
しかし本当に2歳の頃の記憶が全くないのか?と思い、オレが2歳当時の1964年放送のTVアニメを調べてみると、手塚治虫原作のアニメ『ビッグX』があった。これが、微妙なのだ。「主人公が注射(のようなもの)をして巨大になり、なにやら暴れ回る」というシーンだけを覚えているのである。そこだけを覚えているのは「注射」が子供にとって恐怖の対象だからだろう。後々それが『ビッグX』だと分かるのだが、「『ビッグX』というタイトルのTVアニメを観ていた」という記憶はないのだ。そういった部分で、「生まれて一番最初の記憶」は実はこの『ビッグX』(の注射の描写)となるのかもしれないが、全てぼんやりと曖昧であり、やはり確固として記憶に残っている事柄は3歳からのものなのだろうと思う。
さて次の記憶はTVアニメ『ハリスの旋風』だ。これは1966年から1967年に放送されたのらしく、とすると4歳頃の記憶となる。いつもこのアニメのテーマソングを歌いながら主人公になりきって外をのっしのっし歩いていたことを憶えている。今回取り上げたTV番組の中でこの『ハリスの旋風』だけが「SF的でない」という部分で異色だが、主人公の腕白さが暴れん坊な4歳児のハートに激しいシンパシーを感じさせたのだろう。
それと特撮番組『ウルトラQ』と『快獣ブースカ』。これも1966年放送なので4歳の頃の記憶となる。『ウルトラQ』は物語を(全てではないにせよ)かなり理解して観ていた、という部分で画期的なTV番組だった。これは物語の根底に恐怖や不可思議さがあったからではないか。そして子供にとって恐怖や不可思議さといった感情・感覚はかなり理解しやすいものだったからではないかと推測している。
『快獣ブースカ』はキャラクター造形の楽しさと同時に「ラーメン好き」という部分にシンパシーを覚えていた。オレもラーメン好きの子供だったのである。1966年というと「サッポロ一番」や「明星チャルメラ」といったインスタントラーメンが発売されヒットした年なのらしく、多分これら新発売インスタントラーメンを購入し家族で食べていたに違いない。
そうすると、オレと4つ違いの弟が生まれたのもこの頃だといえる。ただなぜか生まれたばかりの頃の弟の記憶があまりない。抱っこしてあちこちに持って歩き、泥水の中に落としたことがある、と父母に言われたことがあるが、なぜかそれを憶えていない。小さな子供にとってさらに小さな赤ん坊というものの存在は、内包する情報量の少なさから記憶に残りにくいのかもしれない。
ただこの頃にやらかして叱られた悪戯のことや、初めて食べたパイナップルや桃の缶詰が美味しかったのはなぜか覚えている。パイナップルをよく憶えているのは当時は結構珍しい果物であったことと、パイナップルから切り落とした頭の葉の部分を両親が水の入った皿に生けて育つのかどうか試していた光景が目に焼きついていたからである。桃の缶詰も、風邪をひいた時しか食べられない類のものだったからだ。
4歳、5歳の頃は保育園の記憶が強く残っている。家族以外の他人と接するので脳が色々学習しようと動いていたのだろう。オレは乱暴で甘えん坊で泣き虫の子供だったようだ。まあ子供なんてそんなものだろう。一番よく憶えているのは屋外スケッチをしに行った時だ。外に行って何かを見て絵を描く、という行為が初めてだったので記憶に強く残ったのだろう。
今回記事を書く参考として「年代流行」というサイトを利用させてもらったのだが、ここで5歳の頃、1967年の流行や時事を調べてみると、これが結構覚えているのだ。これが逆に、それ以前の流行や時事が全く記憶にない。すると世界や社会が見えてくるのは5歳からなのだろうか。例えば「年代流行」による1967年の流行・出来事として挙げられている「グループサウンズブーム」「イエイエ族」「ミニスカート全盛」「ハプニング」「フーテン」、ヒット曲「ブルー・シャトー」「真っ赤な太陽」「帰ってきたヨッパライ」、これらは全部覚えていた。正直全てTV番組からの情報だが、少なくとももうアニメや子供番組ばかりを観ていたわけではないことがわかる。
では大好きだったTVアニメはなにがあっただろう。これは『悟空の大冒険』『パーマン』『マッハGoGoGo』『リボンの騎士』と、どれも強く心に残っている。これは以前よりもより深く物語というものが理解でき、十分楽しめるようになってきたからだろう。それと併せ、TVアニメの表現方法や物語展開がより成熟してきたことも挙げられるかもしれない。特に『悟空の大冒険』は、あまりに好き過ぎて成人してからDVDボックスを購入したほどだった。
『マッハGoGoGo』は日本離れした設定と滅茶苦茶カッコいいスポーツカーのギミックに憧れた。
特に手塚アニメ『リボンの騎士』は、「天使の悪戯により男性の心と女性の心両方を持ってしまった王女サファイア」という設定が、5歳児には相当に衝撃的だった。5歳児のオレは極単純に自分は男であってそれは揺るぎないものと思っていたが、自分に女の子の心があったらどうするのか?と想像するのはとても不思議なことだった。だから主人公サファイアの一挙手一投足に目が離せなかった。考えるに、オレの生まれて一番最初のアイドルは、リボンの騎士サファイアであったのかもしれない。