ブルーノートレコード ジャズを超えて(監督 ソフィー・フーバー2018年スイス・アメリカ・イギリス映画)
ジャズCDを買い集めるようになると、かなりの頻度でブルーノート・レコードのアルバムになる。ブルーノート・レコードだけが優れたジャズ・レーベルではないのだろうが、やはりそれだけ名作や人気作を擁しているのだろう。それとブルーノートのいい所は、そのジャケット・デザインにあるだろう。一目でブルーノートと分かるそのデザインは、いわゆる”お洒落さ”がある。それでついついブルーノートを贔屓にしてしまう部分もある。
ブルーノート・レコード設立80周年を記念して2018年に製作された映画『ブルーノートレコード ジャズを超えて』はブルーノート・レコードの創立から現在までを描いたドキュメンタリー作品だ。往時の記録フィルムやライヴ映像を交えながら、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターらが過去を振り返る証言、現在ブルーノート・レコードを率いるドン・ウォズや若手アーティスト、ロバート・グラスパーらのレーベルへの熱い想いなどが重ねられてゆく。
次から次に画面に登場する歴史的ジャズメン、有名アルバム、傑作音源、貴重なライブフィルムなど、観ている間中ずっと楽しい気分でいられるドキュメンタリーだった。同時にこれら素晴らしいジャズ作品を支えた関係者たちのジャズ愛もしっかりと描写されていた。割と結構な数のジャズアルバムを聴いた頃に観たので、使用されるジャズ音源も登場するアーティストも結構知っている作品・人物ばかりでとても嬉しくなってしまった。逆に知らない音源で気に入った作品は早速チェックしてCD購入した。その辺は抜かりないのである。
驚かされるのは1939年にこのレーベルを立ち上げたのが、アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフという二人のドイツ人移民だということだろう。当時の黒人ジャズミュージシャンの気風にぴったりと寄り添い、彼らを理解し、ひとつの仲間となって優れたアルバムを輩出してきたのがアメリカ在住白人ではなくドイツ人移民だったという部分がとても興味深い。アメリカ的な音楽ビジネスとは離れた部分で芸術性を重んじたジャズ作品を輩出し続けたという部分で(儲からなかったそうだが)、この二人の功績は音楽史に残るものとなるだろう。
ブルーノート・レーベルは経済的事情もあり一時活動停止状態となるが、この空白を埋めたのが黒人の若者たちによるヒップホップだった。音楽への衝動は時代が変わっても若者たちの心にあり、その衝動は過去のジャズサウンドのサンプリングという形で昇華され受け継がれた。ジャズは過去のものではなく形を変えながらも現代に生き続ける。そしてヒップホップ世代の若者たちが次に新しいジャズの担い手になる。映画の結びではこういった形でジャズサウンドの継承が描かれ、十分な感動を呼ぶドキュメンタリーとして完成していた。