貯める男

前回『悶絶くん』『リス男』として勇名を馳せた会社のA君。
先日そのA君が自分の机の引き出しを開けている所を何の気なしに見ていたのだ。
するとA君の引き出しの中にはおびただしい量の黒いものが。
「な、なんだそれはA君。」
問いかけるオレ。
「…海苔ですがなにか。」
とA君。
そう、引き出しの中を埋め尽くす黒いものとは海苔のパックだったのである。


訊くところによるとA君、昼食はいつも母親手作りのおにぎり(2個)を持参してくるのであるが、自分で手巻きできるようにパックの海苔も持たせられるらしい。
この海苔が殆ど使われることなくA君の机の中に残されているのだ。
「…A君、君のお母さんに…”海苔こんなにいらない”と言えないのか…?」
問いかけるオレに蒼ざめた顔でうつむき下唇を噛むA君。
そんな彼をオレはこれ以上追及することが出来なかった。
必要以上の海苔を息子に持たせる母。
そしてそれを持て余しながら何も言えない息子。
これはなにかの試練、或いは折檻、或いは何かの戒めなのであろうか。
はたまた連綿と続くA家の家訓、伝承、教えなのであろうか。


遠い昔、A家家長が謎の病に倒れ瀕死の床に就いていたときに、彼の命を救ったのが一枚の海苔で、それ以来海苔への絶対の忠誠を誓い、海苔を食べ続けることが海苔への感謝と無病息災の願いとして代々A家に伝えられた家訓なのであろうか。
しかしそんな古臭い言い伝えに反抗して食べることを拒むA君。
家族との確執、相克、造反、別離。
これからのA君には疾風怒涛の試練が待っているとでもいうのであろうか。


と、オレの頭の中ではこのようなシナリオが作られたのであるが、…んなわきゃねーよな。
という訳で、余った海苔をA君から戴き、昼食時にはちょっとヘルシーな気分な毎日を送っているオレであった。A君ありがとう。