それはエクステだった

  • 「ほう。最近はつけ毛のことをエクステというのか」職場で雑誌をペラペラめくりながらオレはひたすらオヤジ臭くそう呟いたのである。
  • 「あー私もつけたことありますよー」と部下の女子社員が答えたので「へえー、今じゃあんまり珍しいもんじゃないんだねえ」と例によってオヤジ臭く相槌をうっていると、それを聞いていたスダレ髪の男 I くん・通称スダレくんが「でもあれってすぐ取れちゃうんですよ」などと言うではないか。
  • 「ぬ?すぐ取れちゃうって、なんだか君エクステ付けた事があるみたいな言い草じゃないか?」そう問いかけるとスダレくん、「ああ、付けた事ありますよエクステ」と答えるではないか。
  • 「ぬぁぬぃ?男の君がエクステるのか?なんなんだそりゃ?」オヤジのオレは事情が読み込めずさらに聞いてみたのだ。
  • 「いや、美容院行ったときに置いてあったんで一回付けさせてもらったんですよ。そしたら結構気に入って、休みの日にたまに付けて遊びに行っちゃったりしてます」と答えるスダレくん。
  • 「ええ!?どのくらいの長さの付けるの?」と聞くとスダレくん、「うーん1メートルぐらいのかなあ」などと言うではないか。
  • 「ややや、1メートルって!殆ど腰まであるじゃない!?そんなの付けていったいどこ行くんだ!?」既にオヤジの常識外の事態に慌てふためくこのオレだ。
  • 「いや普通に歌舞伎町とかですよ。ホストやってる友達と飲みに行ったりしてます。しつこいオバサン客の愚痴ばっかり聞かされてますよ」としれっとした顔で言うスダレくんだ。
  • 「あのー、ちょっと聞いていいかスダレくん、ええと君はそのー、女装とかをするわけなのか?」恐る恐る聞いてみるオレに明るい顔で「いや、そっちの趣味は無いっす!」と答えるスダレくんだ。要するに彼はロン毛男の自分を演出しているのらしい。ううむそれにしても男子がエクステ1メートルっすかあ!?
  • 「…負けてられないな」オレはスダレくんにそう呟いた。「え?」と聞き返すスダレくんにオレはもう一度言葉を返した。「君には負けてられないってんだよ!オレもエクステ付けちゃる!」その時オレの瞳に戦いの炎が赤々と燃えていたことをスダレくんは目にしたことであろう!
  • 「何が1メートルのエクステだ!だったらオレは胸毛エクステ1メートル!腋毛エクステ1メートル!すね毛エクステ1メートルで勝負だ!そして仕上げは勿論チン毛エクステ1メートルだ!どうだ参ったかスダレ野郎!毛如きの長さでお前に負けてたまるものか!」
  • 「は、はあ…」小汚いオヤジの訳の分からない対抗心にすっかり気圧されスダレくんは既にドン引き状態である。
  • 「さらに腕毛!腹毛!ケツ毛!全身の毛という毛に1メートルのエクステを装着し全身エクステ男として世界のエクステ界に君臨してやるのだ!どうだ参ったか!」どこまでも暴走して行くオレに事務所中が"また始まったよ"とばかりに目を逸らせ始めていたが、無意味に興奮するオレにそんなものなど目に入らない。
  • 「どうだオレの勝ちだ!お前は負け犬なんだよスダレ!わはは!わはははは!」もはや誰も聞いていない戯言に自己陶酔しながらオレの高笑いはいつまでもいつまでも事務所にこだまするのであった。ってかオレ、仕事しろよ…。

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