40リットルの男

A岡くんはオレの会社の部下である。いつも背中に棒でも背負っているかのように背筋の伸びた男であるが、フィリピンパブに行くと鼻の下も伸びてしまうという風俗好きのお茶目な男でもある。以前この日記では何度か登場した事があるのでご存知の方もいるかもしれない。
フィリピンパブ以外のA岡くんの趣味は貯蓄である。別に趣味なんか訊いてもいないのに「俺、相当貯金貯め込んでいるんですよ、ウッホッホッ」と誰彼なく吹聴して回っているから多分そうなのである。自慢したくてしょうがないようなのだ。風俗なんかに行ってるのに貯金なんか出来るのか?と思うのだが、それ以外の支出は相当抑えているようだ。オレの職場は私服で出社OKなのだが、そういえばA岡くんの私服はいつも着たきりすずめである。「お前それ、上から下まで高校生の頃から着てる服じゃないのか?」と訊いたら真顔でハイと答えられたぐらいである。
週末職場の作業着を洗濯しに持って帰る時も、40リットル入り炭酸カルシウム配合の透明ゴミ袋に入れて持って帰るのである。「お前そのゴミ袋ぶら下げて電車乗るのか?」と訊いたら、またもや真顔でハイと答えられてしまったオレである。さらに先日出社する時、アルミ材を使った保冷用の銀色バッグを提げていたので、「なんだ、会社にナマモノでも持ってきたのか?」と訊ねると、「いえ。会社履きの靴を入れて持ってきました」とまたしても真顔で答えるA岡くんなのである。
さすがにこれはオレも納得できず、「いや、なんで保冷バッグなんだ?家にデパートやなにかの紙袋とかは無かったのか?」と追求すると、「手元にあったのがこれでした」と全く動じる事無く、なんでこいつはそんな下らない事をしつこく訊いてくるんだ?とでも言いたげに、ぶっきらぼうに答えるのだ。オレの完敗である。大体、何を言われても全く動じない所は、ある意味漢らしい、見上げたヤツとさえ言える。
考えてみればアマゾヌだのピザ&ビールだのと、無駄遣いの限りを尽くし、いい歳こいて貯金がジリ貧なオレなんぞは、彼の倹約ぶりを見習うべきなのかもしれない。やはりここは、40リットル入り炭酸カルシウム配合透明ゴミ袋をぶら下げて街を歩く所から始めてみようかと思うオレであった。