帰ってきた男


会社の部下であるA君が月曜日休みを取り、土日月の3連休でどこぞへと旅行に行ってきたらしいのである。もとよりフィリピンパブをはじめロシア、中国、中南米などありとあらゆる外人女性系風俗を渡り歩いているA君がただの旅行で済む訳が無い。金曜日には「どこの女がいる国に行くんだ」「全ての国を周るつもりか」「むこうの親に挨拶か」「帰化するのか」などと事務所中から散々からかわれて家に帰ったA君であったが、火曜日に出社した時には「えーと、どこの国からいらした方ですか?」などと外人扱いである。「日本語上手いですね」「日本には何年滞在されているんですか」「好きな日本食は何ですか」「納豆食べられますか」とかなんとか弄られまくった後に、A君の名前は"ジミー"に決定、今度はミスタージミーだのジミーA君だの呼びたい放題。勿論「ジミーちゃんやってるー!?」というお約束もありだ。最初は苦笑いしていたミスタージミーことA君であるがさすがに周りがしつこいから段々無視を決め込み始める。しかし無視されたら無視されたで「彼はまだ日本語がよく分からないから時々黙っちゃうんですね」「そうですね」などと追撃の手を緩めない事務所一同。そのうちミスタージミーは向こうの国の人だから向こうの国の言葉で話しかけなきゃダメだ、ということになり「アニョハセヨー」だの「ニーハオ」だの「ナマステー」だの「サラーム」だの「スパシーバ」だの知っている言葉を次々と投げつける。最後に「ジャンボ!」と呼びかけたらミスタージミーもさすがに呆れたらしくプッと噴出したのを事務所一同が見逃す筈が無い。「おおそうか!ジャンボの通じる国の人だったんだね!?」「そうかー君はジャンボ系だったのかー」「んージャンボ!んージャンボ!」と囃し立て、挙句に「奥さんは何人いるの?」「槍投げ上手い?」「吹き矢吹くな」「齧んないでください」などとみんな口々にメチャクチャなことを言い出す。他にもあからさまに人種差別になってしまうようなことも言っていたが当然書けない。しかしその内みんな飽きてきて「で、何処行ってたの?」とミスタージミーに普通に訊いたら「韓国です」という答え。すると事務所のバガヤロ様御一行(含むオレ)にまたもや火が付いてしまい「やっぱノースなコリアなんだな?」「将軍様には謁見したのか?」「やっぱシークレットブーツ履いてた?」「喜び組には会ったか?」「パレードどうだった?」「テポドン落とすなゴルァ」「拉致してんじゃねー」とかなんとか言いたい放題。さらに「焼肉食わせろ」「キムチ壺一個分持ってこい」「竹島は譲れん」「ジンロ!それはたのしーお酒」とかもう訳が分からない。しかし仕事の開始時間が始まるとみんなさっさと現場に向かい、事務所にはミスタージミーと受付の女の子とオレの3人が残った。そそくさと机の書類に手をつけ始める各々だったが、オレただ一人がそれから一日中ミスタージミーの隣で「んージャンボ。んージャンボ」とぶつぶつ囁き続けていた事は言うまでもない。