それは同時多発だった

オレの職場のA君が髪を切ってきたのである。いや、それだけならたいした話では無いのだが、事務所の I 君、K1号君、K2号君も同じ日に髪を切ってきているではないか。事務所の若手4人が同時に髪を切って来る。これは何か怪しい事実が背後に隠されているのではないか、と剃刀のように鋭利な勘を持ち合わせているオレはそう睨んだのである。

「Aよ。男4人、同時に髪を切るとはいったいどういうことなんだ」
「いやあ、たまたまですよ」
「偶然だと言い張るのか。そんな見え透いた嘘っ八がこのオレに通用するとでも思っているのか」
「だからたまたまだって言ってるじゃないですか」
「いいやオレには分かっているぞ。さてはお前ら、一緒に待ち合わせして髪を切りに行ったんだな。いい齢した男4人、随分と仲良しさんじゃないか」
「行ってませんよ!?」
「そしてお互い「今度この髪型にしなよ!」だの「この髪型が似合うよ!」だのと和気藹々と髪を切ったんだな。どうだそうなんだろ白状しろ」
「なんですかそれ!?」
「いや、実はお前ら、誰かの家に集まってお互い髪の切りっこをしたんだな!?「うわー切り過ぎちゃった!」だの「うわーそうじゃないよう」だのと和気藹々と髪の切りっこをしたんだな!?どうだそうなんだろ白状しやがれ!」
「わけわかんないっすよ!?」
「そして髪を切りあったあとはみんなで部屋でゴロゴロしながらコーラ飲んだりポテチ食ったりしながらワンピースの回し読みとかしてじゃれてたんだろ!?」
「それ思いっきりキモイっすよ!」
「それはオレの言葉だ!」
「勘弁して下さいよ!」
「お前らだけで楽しそうにしやがって!よくもオレを仲間ハズレにしたな!オレだって若いもんと一緒に髪の毛の切りっこしたかったんだ!」
「…はあ?」
「…え?」