瞳の中の星の話、その他の話

子供の頃の話。
クマのぬいぐるみを買って貰い、寝るときには欠かさずそれを抱いて寝ていた。子供だったから寝室を暗くするのが恐くて、いつも小さな電球は付けていた。小さな電球の光はクマのぬいぐるみの黒い瞳に乱反射してあたかも星が散っているように見えた。それを観ていると奇妙に暗がりが恐くなかった。子供のオレはクマの瞳の中の星を見ながらいつも眠りについていた。
別の話。
ひどい風邪をひいて悪夢にうなされた。ひどい風邪の時の悪夢はいつも決まって天井から天井の大きさの巨大な10円玉がゆっくりオレの上に落ちてくる夢だ。
別の話。
子供向けのサバイバル・マニュアルの本を買って貰った。しかしいくらド田舎に住んでいたとはいえ、子供がそうそうサバイバルが必要になる事はない。だから友達が遊びに来たとき、その本を参考に部屋で無人島ごっこをした。6畳ほどの寝室がジャングルと毒沼と不気味な生き物で満ちた冒険島と化した。
別の話。
お祭りで買ったカラーひよこはずっと生きていた。ひよこは鶏になり、家の外に大きな金網の小屋を作って中に入れられ、そして冬を迎えた。ある日、鶏は凍えて死んでいた。特に悲しくも無かった。臭くて五月蠅かったからだ。
別の話。
そしてお祭りで買った亀は必ず逃げ出していなくなってしまうという罠。
別の話。
お祭りではヤドカリも売っていた。何匹か買って家で飼っていたが、そのうちの一匹は買ったときから元気が無く、貝の中から出てこなかった。ある日そのヤドカリがとうに死んでいることに気付いた。出店の親父が最初から死んでいたヤドカリを売り付けたのだ。
別の話。
近所には小さな川が結構あり、子供同士でザリガニや蛙を取って遊んでいた。子持ちザリガニを捕まえるとヒーローになれた。ザリガニの足の部分に、小さな子供のザリガニが何匹かくっついているんですよ。ある日さらなる大漁を目指して、仲間同士川の上流へ行ってみる事にした。次第に険しくなる岩の山、黒々と茂る怪しげな草木。しばらく川岸を遡り、そして川が曲がる対岸の岩の上に、オレたちは不気味なものを見つけた。そこにいたのは、まるで番でもしているようにピクリとも動かず居座る、巨大な丸々と太った真っ黒い毛虫だったのだ。そしてオレと仲間たちは青褪めたまま口も訊かずそこから逃げ出した。

そしてまた、別の話…。