教皇選挙 (監督:エドワード・ベルガー 2024年アメリカ・イギリス映画)
ローマ教皇死去後に新しい教皇を決める選挙、”コンクラーベ”。映画『教皇選挙』はそのコンクラーベを題材に、選挙のさなかに進行する権謀術策に満ちたパワーゲームを描く作品となります。選挙を取り仕切る主人公ローレンス枢機卿をレイフ・ファインズが演じ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニらが共演します。監督はNetflix映画『西部戦線異状なし』のエドワード・ベルガー。
【STORY】全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派、カトリック教会。 その最高指導者にしてバチカン市国の元首であるローマ教皇が、死去した。 悲しみに暮れる暇もなく、 ローレンス枢機卿は新教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>を執り仕切ることに。 世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、 システィーナ礼拝堂の扉の向こうで極秘の投票が始まった。 票が割れるなか、水面下で蠢く陰謀、差別、スキャンダルの数々に ローレンスの苦悩は深まっていく。 そして新教皇誕生を目前に、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……。
コンクラーベを題材にした映画というとコメディ作品『ローマ法王の休日』やダン・ブラウン原作の陰謀論映画『天使と悪魔』、伝記映画『ローマ法王になる日まで』(未見)なんてェ作品があり、世界のカトリック教会を背負って立つってェのはなにしろ大変なんだねェということと、思いっきり古臭いしきたりで縛られた男だけの社会なんだねェ、という印象を持っていました。また、バチカンの暗部といった点では『ゴッドファーザーPARTⅢ』でその一端が描かれていて、まあ綺麗事言ってる連中ってのは裏じゃあ結構ドロドロなんだよねェ、と思わせてくれました。そういや『ヴァチカンのエクソシスト』なんてェオカルト映画もありましね!あれは楽しかったなあ!
この『教皇選挙』でもそんな厳粛かつ古色蒼然とした社会と、こういったタコツボ社会では常態なんであろう談合結託潰し合いに塗れた政治闘争が描かれるわけです。言ってみりゃあバチカン版『仁義なき戦い』ってところでしょうか(いや違う)。とはいえ、決してエゲツナイお話を延々見せられるのではなく、「この現代において信仰って何なんだろう?」という当事者自身の問い掛けがあったり、またシスティーナ礼拝堂に代表される篤い信仰心とたっぷりのお布施で仕上げられた壮麗な宗教建築・美術を楽しめたりと、なかなかに高尚かつ眼福な映画であったりもします。
で、物語なんですが、何人かの有力教皇候補が次々と醜聞やら失言やらでドミノ倒しのごとく潰されてゆく過程を見ていて、ああこれってこういう物語なんじゃ?といろいろ妄想してしまったんですよね(ここからはネタバレではないですが”結末はそうじゃない”という部分においてある意味ネタバレになってしまので閲覧注意)。
それは主人公であるローレンス枢機卿が、あんだけ真面目な顔して真摯な能書きを垂れながら、実は彼が全ての陰謀を裏で操ってたんじゃないのか!?ということなんですよね。「私は教皇にはなりたくない!」とか言いつつ最終的に彼が教皇に選出され、最後の最後に「グヘヘ!」と思いっきり悪い顔をしてエンドロール!という、そんなどす黒い映画だと思ってたんですよ。それとか、物語の最中に”市内で謎の爆発”が言及されるんですが、これは「そんな爆発よりも選挙が大事!」なんてやってたら、実は世界大戦が勃発していてめでたく教皇が決まってみたら世界中焼け野原!というSF映画なんじゃないか!?とかね。
とはいえ本当の結末はそんなんじゃなくて、これはこれで結構度肝を抜かれました。あーこのどんでん返し的な結末の付け方ってミステリっぽいなあと思ってたら、原作はロマン・ポランスキーで映画化もされた『ゴーストライター』のロバート・ハリスじゃないですか(『ゴーストライター』は心胆寒からしめる素晴らしい胸糞映画でした)。そういった部分でこの『教皇選挙』、宗教の在り方とかバチカンの存在意義とかそういうことではなく、よくできたミステリとして楽しんだらいいんじゃないでしょうかね。オレは十分楽しめましたよ。